『チンクェチェント物語り/リタ~ンズ』
第6章(2011→2014改訂版)
~Problema generando speciale編~
(トラブル スペシャル編)
『破断地獄再び~絶叫!真・破断事件~』
第四話
~オールウェィズ・トライ~
『ブリブリブリ』
ゆっくりと走りながら、慎重にエンジンとミッションを暖める。
エンジンとミッションが冷えている状態で無理な発進をしたために、ダメージが心配なのである。
そしてクラッチが使えないため、アクセルのオン・オフは丁寧にゆっくり行なう。
そうしないと動きがぎこちなく、
『ガクン、ガクン』
となってしまうのだ。
やがて下町の街道から、都心方面への幹線道路に出た。
さすがに休日の早朝だけあって、予想どおり交通量は少ない。
『グッ、カコココン』
「むむう。」
思うようにギアチェンジができない時もある。
それでもなんとか2ndと3rdギアを使って走行を続けるのだが、信号のタイミングを見計らうのが難しい。
普通に発進できないため、赤信号で交差点の先頭に止まってしまったら悲劇である。
それに、やはりセルを使った一人押し掛けは様々に負担が大きそうで、できるだけやりたくない。
「こいつは・・・なかなか難しいぞ。」
自分のものになったチンクで、始めて○○ガレージから自宅へ向かった時のような、そんな緊張感である。
苦労しながらSさんとの約束の地へと、チンクを走らせるのであった。
都心に近付くにつれ、少し交通量が増えてきた。
「もう少しだ。頑張れー。」
周囲への気配りと緊張で既に疲れきり、もはや気合だけで走っていた。
と、遥か前方に赤い小さな点が見えた。
「ん?あれは?」
そいつには見覚えがあった。
「あっ!あれは代車一号だ!」
以前、初車検の際に代車として与えられた赤チンクである。
Sさんはすでに到着していたのだ。
何かしているのだろうか、Sさんのトレードマークのタオル巻いた頭が左右に動いている。
Sさんを発見したことで急に気が楽になった。
赤チンクの後ろに付けて、イグニッションを切り停車した。
「あっはっは、ここまで走ってこれれば素人にしては上等だよ。大したもんだ。」
と、Sさんからお褒めの言葉を賜った。
「ここからは俺がそっちのに乗って行くから、ゆっくり後を付いてきてくれよ。こっちのリアウィンドウに三角標識を貼っといたからよ。」
なるほど、さっきはこれを貼る作業をしていたのか。
クルマをチェンジし、ゆっくり走り出す。
私が乗る赤チンクが後ろでサポートカーとなり、後続車に対してフォローをする役目を負うのだ。
だが、1~2km走ったところで、前を行くマイ・チンクが動かなくなってしまった。
Sさんが奮闘するも、全くエンジンが掛かる気配がない。
「仕方ないな。ここからは牽引して行こう。」
牽引ロープでチンク同士を結び、今度はSさんが赤チンクで、私が乗るマイ・チンクを引っ張って行く。
街角のショウ・ウィンドウに写った2台のチンク。
その姿は、まるで”ダンゴムシの綱引き”のようであり、思わず笑ってしまうほど、なんともユーモラスであった。
周りも、
「何だ?変なのが変なのを引っ張ってるぞ?」
と思ったに違いない。
苦労はあったが、なんとか無事に○○ガレージに辿り着いた。
着いたとたんに、早速エンジンを降ろしにかかるSさんである。
チンクのエンジンは、エンジンマウントがあるボディーの一部と、ケーブル類や配線等の接続部を外し、ベルハウジングとの接続ボルトを外せば、後に引っ張り出せるのだ。
見ているととても簡単そうであるが、それはプロの為せる技であり、手際がいいためである。
私も手伝いながら作業続け、15分ほどするとエンジンはあっさりと外された。
ベルハウジングがあらわになる。
Sさんには症状を電話で伝えてあったために、どうやら原因に対して大まかな見当が付いているようである。
「ああ、やっぱりこれだよ。ごく稀にだけど折れることがあるんだよな。ほらここ見てごらんよ。」
指差す先にある物は、クラッチアームの縦軸部分。
そこには何やら棒が折れたような形跡がある。
「本当はここにクラッチアームとレリーズアームを固定するボルトが付いているんだよ。」
「なるほど、固定するボルトが無いってことは・・・、じゃぁアームが空回りになって機能しなくなったの?」
「そうなんだよ。」
Sさんは何が原因でどうなったのかということを、素人の私に対してもいつもちゃんと説明してくれる。
おかげで次に同じような事態に陥っても、そこがたとえ手が出せない部分であるにせよ、原因が想像できるために気が楽なのである。
ということで、さっさとボルトを付け直し、エンジンを再セットして作業完了!
とはいかなかった。
「さっき、エンジン掛からなかったからよ。」
と、Sさんは故障探求作業に移る。
再始動を試みるが、やはりエンジンに火が入らない。
こうなると順に追いかけてみるしかない。
ポイントは問題無し。
コンデンサーを取り替えてもダメ。
プラグを外して、火花が飛ぶか確認しようとした時である。
「ああ、これだよ。プラグホールがバカになっちゃってるよ。」
チンクのシリンダーヘッドはアルミ製である。
その柔らかい材質故、ボルト類の脱着はとてもデリケートであり、注意が必要なわけだが、素人が作業をすると無理に締め付けたりして、結局壊してしまうのはありがちなミスである。
「こりゃー、リコイルしなきゃダメだな。でもリコイルすればそうそうバカにならないからよ。もう安心だよ。」
ということで、Sさんと一緒に内燃機屋さんにチンクを持ち込み、その場でリコイルしてもらった。
さて、再始動である。
『ンギョ、バララン!ブリブリブリ』
「おお!復活ー!」
朝の緊張感溢れる走行とはうって変わり、帰り道は絶好調でクラッチも良好である。
故障さえ無ければ、この子は本当に調子がいいのだ。
『ブリン!ブリリリ~~!』
自宅に向けて、レインボウブリッジを快調に走るのであった。
おわり
次回
『チンクェチェント物語り/リタ~ンズ』
第7章
~Problema generando speciale編~
(トラブル スペシャル編)
~短編集~
が続きます。
大騒ぎするほどではなくとも、細々したことはあるものなのです。
(いや、大騒ぎもしたか・・・)
by MEX