新型コロナウイルス禍で観光客が激減し、2022年には観光船沈没事故も起きた知床の魅力を海外に発信し続けている外国人がいる。北海道斜里町ウトロ地区のガイド、藍屏芳(ラン・ピンファン)さん(32)だ。「『また知床に帰ってきたい』と思ってもらえるように」。事故から2年を迎える今も、その思いは変わらない。

 ◇SNSは3カ国語で

 台湾出身の藍さんは大学生だった15年、ワーキングホリデーで初めて知床を訪問。雄大な自然と地元の人の優しさに魅了され、帰国後に「また知床の人たちと一緒に仕事がしたい」とウトロ地区に移り住むことを決意した。

 16年に就労ビザで再来日し、観光会社の事務や冬の流氷ガイドの仕事を始めた。20年に地元の漁師と結婚。昨年秋には夫と友人ら4人で流氷観光専門の事業組合「ICEAGE(アイスエージ)」を立ち上げた。

 この冬、藍さんが案内した外国人は1000人を超える。うち、9割は台湾や中国の観光客で、斜里町で唯一、中国語案内ができる藍さんのSNS(ネット交流サービス)を見て訪れた人も多かった。「事務の仕事をしていた時、言語の壁があるなと感じた。ガイドの言葉が理解できればもっと満足して帰ってくれるのにというもどかしさがあった」

 19年に始めたSNSでは、英語、中国語、日本語の3カ国語で発信し、知床の風景写真や、観光客が流氷ウオークを楽しむ動画を投稿。「来る前に知床観光のイメージができるかなって。少しでも気軽に知床を選べるように手助けしたかった」。自身が初めて知床を訪れた時の感動や驚きを、もっと多くの外国人に伝えたいという思いが原動力だった。

 ◇新型コロナで激減

 しかしその矢先、新型コロナウイルスが猛威を振るい始める。活気のあった街は静まりかえり、観光客は激減した。22年4月には追い打ちをかけるかのように観光船沈没事故が起きた。「何を発信したらいいのか、そもそも渡航制限で知床に来れないのに発信すべきなのか」。悩む日々が続いた。

 それでも投稿をやめなかったのは、「またいつか知床に来られる日がきた時のため」だ。事故直後は、事故の経過や運航会社の安全対策の不備などについて発信を続けた。

 「知床の海はいつも荒れているの?」と不安のコメントもあったが、誤解を解くために「観光船シーズンは穏やかな海になるよ」と丁寧に説明した。「頑張ってください」「コロナ後に絶対に行きます」。そんな励ましのコメントに勇気と力をもらったという。

 知床観光が回復の兆しを見せている今、藍さんには何よりも大事にしていることがある。知床の自然を楽しみにやってくる観光客たちの安全だ。「私はガイド歴がまだまだ浅く経験も少ない。まずはツアーの安全を第一に考え、観光客に楽しんでもらえるようなガイドをしたい」。再び活気があふれる日を夢見て、一目ぼれした北の大地での奮闘は続く。