(セ・リーグ、阪神15−2中日、5回戦、阪神3勝1敗1分、20日、甲子園)「祇園祭」「天神祭」と並ぶ関西三大祭の1つ「虎祭」が20日、甲子園球場で開催された−。

という書き出しを試合中に思いついて、頭から離れなくなった。もちろん、関西三大祭なんて〝くくり〟は存在しないし、阪神ファンにとって勝った日はすべて「虎祭」。でも、まあ、心地よい春の一日であったことは確かだ。ことしは、あと何度、虎祭があるんだろう?

ただ、ちょっと気になる「現実」も。頼れる4番・大山がこの日、国内FA権を取得した。ということは、来季、阪神に残留してくれるかもしれないけれど、出ていってしまうかもしれない。こればっかりは選手の権利。FAは選手にとって大事だが、担当記者やファンにとっても、オフに向けて、気になる話題であり、大イベントだ。

特に大物選手のFAは、やってくる場合も、出ていくときも、担当記者は大騒動必至。甲子園の記者席で楽しそうに圧勝劇を見ているトラ番たちを眺めながら、心の中で「ことしは大変やぞ〜」とつぶやいた。

トラ番・邨田直人はFAに強烈な思い出がある。

「小笠原(道大)さんがFA宣言して日本ハムから巨人に移ったとき、トレードマークのヒゲをそったんです。巨人はヒゲ禁止なんですよね。そういうルールが巨人軍にあることも知らなかったですし、子供心に、そこまでして移籍するのか、とビックリしました。僕にとってFAといえば、ヒゲです」

意外過ぎる回答に驚かされた。が、そうなんだよなぁ。FAは人生のターニングポイント。どんなことをしてでも移籍したい選手には、まさに大事な大事な「権利」だ。

同じくトラ番・須藤佳裕は中日担当時代、当時の投手コーチ・阿波野秀幸にごあいさつ。「『FA(フリーエージェント)』が流行語大賞になった年に生まれました」と自己紹介したそうだ。すると、阿波野コーチから…。

「ではクイズです。最初にFA権を行使した人は誰でしょう?」

そういえば、近鉄のトレンディーエースとして一世を風靡(ふうび)した時代から、こういうクイズが好きだった。自称・野球博士の須藤は自信を持って即答。

「落合さん!」

「ブー。しっかり調べてきなさい!」

須藤はすぐに検索して翌日、正解を持って再び阿波野コーチの下へ。「阪神からダイエーに移籍した松永浩美さんでした」と伝えたら「すぐに調べたのはえらい」とほめられ、以降、取材でいろいろお世話になったそうだ。

「あの年、流行語大賞の表彰式に登場したのが、落合さんと信子夫人だったので、てっきり落合さんだと思い込んでいました」

須藤は反省しきり。思い込みの怖さを教えてもらい、記者としてちょっと成長した瞬間だった。これが、須藤の「FAの思い出」。

FA制度が誕生したときの、選手側の代表、労働組合日本プロ野球選手会長だったのが、現役時代の岡田監督。「どんな動きが生まれて、どう変わっていくか、楽しみやなぁ」とトラ番たちに何度も話してくれたっけ。

おかげで、トラ番は何倍も忙しくなったのだが…。虎祭に酔いしれながら、オフに待つ「地獄のFA祭」を心配もしてしまった。