海外FA権を行使してソフトバンクからメッツに移籍した千賀滉大投手(29)が、3月に開催される第5回WBCに参加しないことが27日、分かった。代替選手として出場の可能性もあったが、メジャー挑戦1年目のシーズンに専念させたい侍ジャパン・栗山英樹監督(61)の意向で、出場を断念した形だ。
3大会ぶりのWBC制覇を目指す侍ジャパンが、重大な決断を下した。かねて「出たいという気持ちが強い。特に僕は前回大会(2017年、準決勝アメリカ戦)で負け投手になって終わっているので、すごく心残りなところがある」と、出場を熱望してきた千賀を大会中招集しないことを最終決定。すでに栗山監督から千賀本人に直接意向が伝えられた。
双方で熟考、協議が何度も重ねられてきた。一貫して強い出場意欲を示してきた千賀。一方、栗山監督は慎重な姿勢を示し、メジャー挑戦に支障をきたさない範囲で出場の可能性を探り続けてきた。メジャー移籍1年目、それも先発投手。ボールもマウンドも大きく異なる。大事な調整期間である3月にしびれるような国際試合に帯同、出場させることは、何かしらの無理を選手に強いることになり、ケガのリスクも当然大きくなる。
故障によって選手の未来を奪うことを誰よりも嫌う指揮官は、最後までリスク管理、シミュレーションを繰り返した。今オフ、オリックスからレッドソックスにポスティング移籍した吉田正尚外野手(29)の大会参加を最終判断した一方で、千賀の出場にゴーサインを出せなかったあたりに、野手以上に投手のリスクマネジメントの難しさがにじんだ。
参加可否の判断は1月中旬に設定されていた。出場を切望する千賀の思いをくみつつ、可能性を断ち切る過程にも栗山監督なりの親心があった。選手の状態を逐一把握する中で、調整ペースが一段と上がる時期をデッドラインに設定。予備登録枠に入っている右腕の出場可能性を残し続けることが、決して千賀のプラスにならないとの考えがあったとみられる。WBCを意識し続けることでハイペース調整につながり、故障リスクとシーズン開幕後のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことを懸念した判断と考えられる。
本大会の1次ラウンド終了以降に認められている投手の入れ替えによる「代替出場」の可能性も、完全に断ち切った形だ。栗山監督としては喉から手が出るほど欲しい戦力だったに違いない。先発、第2先発はもちろん、短いイニングで相手の勢いを止める三振を奪える投球も期待できる。実力と経験の伴った短期決戦では理想とも言える投手だった。千賀も栗山監督と幾度も意見を交わし、起用イメージを膨らませながら「(大谷翔平らメジャー組も参加する)このスーパーチームで一緒に出たい。このメンバーの一員として呼んでもらえるのは人生で一度しかない」と、指揮官の最終判断を待っていた。
下された断に対し、千賀は感謝の思いを明かした。「栗山さんからは何度も連絡をもらい、温かい言葉、熱い言葉をもらって、すごくうれしかった。今回ばかりは本当に仕方がない」と指揮官の心中を察し「しっかりとメジャーで結果を残せるように、頑張るしかない」と前を向いた。
5年総額7500万ドル(約98億円)の大型契約で、ワールドシリーズ制覇を狙うメッツに鳴り物入りで加入。ニューヨークの人気球団で背負う重圧は計り知れない。準備を着々と進めつつも、心は侍とともにある――。今後のメジャーでの大成功が、選考の舞台裏にあったもう一つのドラマの最高のエンドロールとなるはずだ。