上智大学の非常勤講師に賃金を支払っていないとして、大学側が労働基準法に基づく是正勧告を受けていたことが関係者への取材で判明した。大学側は勧告に応じず、労働基準監督署が出した勧告書の受け取りも拒否したという。是正勧告は法律違反を前提とした行政指導。是正しない場合などは書類送検されることがある。知名度の高い高等教育機関が行政指導に背いたことに、関係者からは疑問の声が上がっている。

 賃金の不払いを申告したのは、語学の非常勤講師を務める60代の女性。女性が東京労働局中央労働基準監督署に提出した申告書や、加盟する労働組合「首都圏大学非常勤講師組合」によると、女性は日本語初級コースを担当。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた2020年度からのオンライン授業の導入に伴い、教材を1人で作成した。

 女性は20〜21年に教材の作成などで計約105時間分、約75万円の賃金が不払いだったのは労基法違反と主張し、21年9月に申告した。このうち20年3〜5月の計22日間(52時間)は、授業がなく無給とされた期間だった。

 労組によると、労基署は実態調査に基づき、女性に労働の実態があったと認定した。女性と大学側が交わした契約書には、業務として教材の作成が記されていないことなどから、「新たに発生した対価を伴う労働」と判断。労基法違反を認め、賃金を支払うよう今年2月16日付で勧告した。

 女性によると、大学側は不払いの理由を「授業時間の給与に含まれるため」と説明したが、労基署はこうした主張を退けた形だ。

 大学側は勧告書の受け取りを拒んだため、労基署は口頭で読み上げたという。労基署は勧告への対応について、この日と3月17日の2回にわたり、期限を設けて回答を求めた。初回の期限は3月10日、2回目は同25日だったが、大学側はいずれにも応じなかった。

 女性は「教育機関が公的な勧告を無視するのは信じがたい」と憤る。労組の佐々木信吾書記長は「影響力の大きい有名大であっても、非常勤講師の労働時間管理はルーズなケースが多い。賃金はきちんと支払うべきだ」と指摘する。

 厚生労働省労働基準局監督課は、一般論と断った上で「勧告は違法行為を認定して出す。従うよう繰り返し指導する」としている。

 毎日新聞の取材に、大学を経営する学校法人上智学院は「現在、労基署との相談・協議を継続し、学内においても対応を検討している」とメールで回答した。