月刊明星 昭和36年新年増刊より
旭の歌とともに 馬渕玄三(コロムビア・レコード文芸部)
60年のヒットを一人で背負って立ったといわれる民謡調・アキラ節の秘密はどこに・・・・!?
アキラ君の魅力
私がアキラ君を知ったのは、確か彼が歌手としてデビューする二ヶ月ほど前で、
そのとき私は日活のプロデューサーの児井英生(こいえいせい)さんに呼び出されて
こんなことをいわれました。
゛我が社に小林旭という有望な役者がいます。彼は歌もなかなかいけるので、
一度機会があったら聴いて欲しい゛という依頼を受けたのでした。
私は余り突然なことで戸惑ってしまいました。
話に聞くとなんでもある宴会場でアキラ君の歌った゛都々逸゛が大変上手だった
という評判を耳にした児井さんが、さっそく私のところへ知らせてくれたわけでした。
それから数日後だったと思います。コロムビア・レコードにやって来た
゛アキラ君を早速テストしてみることにしました。
なるほど児井さんのいうようにパンチのきいた歌いっぷりといい、個性といい、
私はその場でアキラ君の素晴らしい魅力にとりつかれてしまいました。
さっそく、私は彼に合わせて曲を作ってもらい、
その年(33年)8月「女を忘れろ」でデビューすることになりました。
A3089 女を忘れろ 作詞 野村俊夫 作曲 船村徹 「女を忘れろ」主題歌
当時、フランク調の甘いムード曲の全盛期で、やれ低音ブームだとか、
ムード・スタイルとか、この種の歌がレコード界をにぎわしていました。
アキラ君のデビュー盤は、一応成功したのですが、
やっぱりフランク調の全盛には太刀打ち出来なかったようです。
しかしアキラ君はそんなことに頓着なくいつも楽しそうに歌っていました。
吹き込みといえば、アキラ君ほど楽しみながら歌う人も少ないようです。
ミキサー・ルームからじかに私たちに伝わって来て、本当に愉快な吹き込み風景です。
これはアキラ君の人柄の魅力というのでしょうか。
歌へのはげしい情熱
A3106 SP盤 ダイナマイトが百五十屯 作詞 関沢新一 作曲 船村徹 「二連銃の鉄」主題歌
アキラ君の持っている歯切れのいい、江戸っ子気質をむき出しにぶっつけた曲といえば
「ダイナマイトが百五十屯」てすが、この曲は、予想以上のヒットを放ってくれました。
アキラ君自身もこの曲が好きだったようで、体当たり的な吹き込みでした。
彼の場合、声だけはハリ上げてリズムに乗るということよりも、体全体でリズム感を表現して
行く方だったので、一曲歌うと汗グッショリ。スタジオの中は熱気でムンムンしてしまいます。
このヒットのおかげで゛マイトガイ・アキラ゛という別名が誕生したわけです。
アキラ君が歌手としての第一歩で輝やかしい成功をもたらしたカゲにはもちろん、
作詞家の西沢爽さんや、作曲面では遠藤実さんや、船村徹さん、狛林正一さんの
協力をことはできませんが、それと同時にやはりアキラ君の歌に対する情熱だと
おもっています。どんなに忙しく撮影でも、レコーディングと聞くとスケジュールを
調整して、深夜になっても会社に駆けつけてくれます。熱心さにかけては、
本当に誰にもヒケをとることはないでしょう。
新しい曲のプランをたてる時など、゛今度はこんな歌を歌わしてもらいたい゛と、
その場で軽くメロディを口ずさみ、私たちにヒントを与えてくれることがあります。
「一人ぼっちの歌」がそれです。この曲はアキラ君のアイデアによって作曲された
もので、夜の公園をさびしく散歩する孤独な若い男の心を歌にしています。
レコードの売れ行きは、余りパッとしませんでしたが、アキラ君の孤独な一面を
現した作品で、私は彼の代表作の一つに数えていいものと思っています。
SA195 B面 ひとりぼっちの歌 作詞 水島哲 作曲 津々美洋 編曲河辺公一