購入済み未視聴DVDより、古谷一行主演、大林宣彦監督、『金田一耕助の冒険』鑑賞。初見ではないです。ネタバレ全開注意。大林宣彦監督。お好きな方も多いでしょう。私も好きです。尾道三部作に代表されるしっとりしたノスタルジックな作品群。それが堪らない方が大半かと思います。しかしそんな作品は大林監督のホンの一部だと思うのです。極彩色めいたガチャガチャした作品。使い古された言葉で言えばひっくり返したおもちゃ箱とでもいうような。私は前者をモノクロ大林。後者をカラー大林と勝手に呼んでいます。商業映画デビュー作の『HOUSEハウス』や二作目、手塚治虫の名作ブラックジャックを実写映画化した『ブラックジャック 瞳の中の訪問者』(手塚はこれを相当嫌ったようですが。)などがこのカラー大林に当たるでしょうか。薬師丸ひろ子主演の『ねらわれた学園』はその中庸といった感じでしょうか。そんなカラー大林の最たる作品が本作『金田一耕助の冒険』なのです。横溝正史著の人気シリーズ金田一耕助物の一つである同タイトルの短編集でありながらその内の一編をメインストーリーとしつつ、他の短編の登場人物像も取り入れた物でTVドラマ版の金田一役・古谷一行を主役に迎えながら酷い映画なんですよこれが。(褒め言葉です。)当時(1979年公開映画)の流行や、監督の自作、他の横溝映画のパロディーだけの映画なのです。それがあまり笑えないと来ている。完全に悪ふざけオンリー。一応前述したストーリーはあるもののそんなの関係なし。途中から少しうんざりしてきますよ。

 しかしこの映画、特筆すべき点がありまして。ハリウッド映画ではままあるらしいのですがダイアローグライターというものを取り入れているのです。読んだ通りの台詞のライターということですね。全体の構成はシナリオライターが手がけるが、台詞に関してはそれに沿ってダイアローグライターが書くというものらしいです。本作ではそのダイアローグライターを劇作家つかこうへい氏が担当しております。そして本作では金田一のバディと言える等々力警部(石坂浩二版だと、加藤武さんが「よおし!わかった!」と言って手を打つ早とちり警部ですね。)を田中邦衛さんがやってまして。邦衛氏はつか氏の舞台作品にもご出演されているので、その台詞回しも熟れたもので、かなりいいです。金田一に向かって、「また血が汚れてるとか、恐ろしい偶然が重なってしまったとか言うんじゃねえだろうな!」とか、「事件が起きたからあんたが来るんじゃなくて、あんたが来るから事件が起きるんだろ!」なんて言ったりするのはかなり素敵です。そんなことなので、等々力警部が段々とつかこうへい氏の代表作『熱海殺人事件』の主人公木村伝兵衛部長刑事に見えてきます。そんな映画ですが一応クライマックスを迎えます。不細工なおばちゃん登場人物の正体が、物語のキーとなっていた絶世の美女である亡くなった夫人であったなんて。それを言い当てる時の台詞が以下。「あらゆる物語はいつでも深い人間の情念に支えられています。この事件の全貌が分かった時、私はどうも事件を支えている執念に欠けているような気がしてなりませんでした。そこで私は考えたのです。不二子さん。自殺に失敗したあなたは無関係な人と結婚し、愛する男の帰りをずっと待っていた。やがて帰ってきた彼は別人のように変わっていた。そこであなたは自分の近くに彼を置いて彼をなじり続けた。それがこの事件の始まりなんです。」推理の源がそんな物語に対する情念に拠るものだとは。メタの手法の発言ですね。凄い。しかし女と真犯人は自殺(心中)のような形で死んでしまう。

 この後はメタ繋がりのクライマックスです。本作のポスター取りということなのか金田一と等々力が写真スタジオにいる。セッティングをするスタッフ達が話をしている。「しかし、よくまあ死にましたね。こんなに殺す必要あったの?」、「結局金田一がモタモタしてたからいけないんだよね。皆死んじまわなきゃ推理できないもんね。大体同じ短編集だからって、別作品の登場人物が出てくるじゃない。」と、突然撮影の効果のためか雨が降り始め等々力が現れる。金「段々謎が解けた気がします。」等「謎解きの鍵となる美女の石膏像の首でも見つかりましたか?」金「首ですか?首ならきっと次に殺される人の元にあるんじゃないですかねえ??急いで謎を解きます。」突然二人で雨の中”お楽しみはこれからだ!なんて、ポーズ。”ここまで、ふざけていたこの作品、そして、それ以外の全て金田一映画。いや全ての映画なんて遊びです。なんてニュアンスであろうか。 で、ここからは一人椅子に座った金田一のモノローグ。金田一にのみスポットが当たり、周りは全て等々力も含めて、闇に飲まれていく。「私、日本のおどろおどろしい殺人って好きなんです。毛唐みたいにピストルばんばん撃ち合う明日の殺人と違って日本の殺人は過去の魑魅魍魎を払い捨てるための殺人なんです。人を殺せば殺すほど、絶望的になっていきますもんね日本の犯人は。世界中のどこ探したって私一人ですよ。犯人の気持ちを思いやる探偵なんてのはねえ。私ねえ、こんなものじゃまだ満足しないですよ。」加速度的に狂気を孕んでいく。この辺りはどこまでつか氏が手を入れたのかは分からないが、木村伝兵衛以上の狂気。「もう四人も五人も死んでるんだ。まだ一波乱も二波乱もあってもいいじゃないですか。私だってちったあ名の知れた探偵なんだ。このままもし終わるようなんだったら、等々力さん!次はあなたを犯人にする気でいますよ。私達、そのために登場してるんですからね。」突然かき消える。等々力「(辺りを探し)まさか!」

 場面変わって砂浜。大きな鐘や吊り下げられた刀。逆さ吊りの死体。半ば埋められ漏瑚を咥えさせられた死体などと戯れる金田一。遠くに現れそれを見つめる等々力とその部下。部下「しかし、なんであの死体なんて盗み出したんでしょ?しかも現場に下駄の跡を残して。しかしボス、あんた何もかも知っていたんでは?」等々力無視して金田一に歩み寄る。金田一、それに気が付き「やっと来ましたね等々力さん。そんな大人っぽい顔のあなたに会うのは初めてです。中々似合いますよ。さあ、さっさとおやりなさい。僕はこのままであなたにお別れします。さようなら等々力さん。さようなら金田一耕助。」またしてもかき消える。                         The End

 

 

 

今までに見たこともない金田一。見たこともない大林映画です。好き嫌いは出ると思いますが。お薦めです。なんて言いつつ、後半丸写しですみません。