北村薫著『六の宮の姫君』(創元推理文庫刊)読了。ネタバレ注意。以前FB上で、古い友人がお薦めしていた一冊ですが、その友人とは趣味嗜好が近いようなので、手に取りました。しかしです。本作は著者の代表的シリーズである円紫さんと私シリーズというものの一つに数えられるとかで、あ、またシリーズものの途中から手を出してしまうという悲劇に陥ってしまった…。で、とりあえずどんなシリーズかと言いますと、文学部の大学生の私と大学の大先輩でもある噺家・春桜亭円紫(しゅんおうていえんし)が日常に謎と不可思議を解き明かすという円紫が探偵役、私が助手役な感じだそうですが、円紫はプロの探偵でもなければ刑事でもないし、扱う事件も殺人なんてものでもないような。ライトな感じのミステリー、こういうのコージーミステリーっていうらしいですね。不勉強でしりませんでしたけど。大好きな米澤穂信の古典部シリーズもこれなんだな。で、その辺りは一度置いておいて。
本作はその私が卒業も近付き、卒論のテーマに芥川龍之介を選ぶことから始まる物語です。そこで目を付けるのが本作のタイトルでもある芥川の短編『六の宮の姫君』な訳です。こ芥川の短編は古今物語集にある一つの話に芥川が想を得て書いた短編小説なので、古今物語集→芥川→本作という入れ子構造になっているという凝った造りなのですね。(私)は卒論をワープロ(時代を感じる言葉)で書きたいと思い立ち、ならば買わなければ。で、お金が欲しい。なんて考え、卒論担当教授に出版社のアルバイトを紹介してもらいます。そこで、出会う敏腕女編集者、大御所小説家などにヒントをもらったり、誘導されたりとしながら、卒業論文のためにも芥川が何故この短編を書くに至ったのか、検証・考察していく。その様はまさにミステリー以外の何ものでもない。少しドキドキしつつも学習しつつ読み進める。ヒントの中の一つ、友人とのドライブをしながらのおしゃべりはさながらロードムービー小説的な趣もあり面白い。
そして、この後からが円紫師匠の登場である。シリーズの読者であればここで「待ってました!」って感じなんでしょうが。私は初めてだしなあ。本作に於いてはただの一人の登場人物。しかしこの方が博覧強記であり、性格的にも優しく穏やかであることがすぐに知れる。芥川の交友などの様々なヒント(この中での蘊蓄も面白い)で。円紫師匠は、結論を教えてしまうでも・押し付ける訳でなく、(私)を答えに導いていくことが素晴らしい。芥川の交友関係の中でも鍵となるのが菊池寛である。二人は不仲なんだか親友なんだか私には少し判断付き兼ねますが。そこがまた面白く興味深い。ここで大変驚いたこととしては、芥川は長男が生まれた時に菊池寛の読みだけ頂いて比呂志と名付けたそうな。知らなかった。驚き。
小説は(私)が菊池が芥川に送った結婚を祝う手紙で締め括られる。なので特に言及はしていないが、さぞかし素晴らしい卒業論文が提出されたことであろう。
また、読むべきシリーズ物が一つ増えてしまった。嬉しくもあるが。