入間人間著『たったひとつの、ねがい。』(メディアワークス文庫刊)読了。ネタバレしないよう努力はするが、難しいかも。書き終わったらやっぱり無理でした。全開。

 身体を壊す前は、書店をうろつくのが好きでした。漫画コーナーや、小説コーナーで平積みになっているものをジャケ買いしたり、帯の惹句に誘われ買ったり、書店ならではのポップで読みたくなったりとそんな時間が好きでした。しかし、身体を壊し杖歩行者になってからは、長時間うろつくことも体力的に難しく、そんな時間も少なくなっていました。それでもやはり小説を読んだりは好きなので。そうした時、情報を得ようとするとネットが主となる。好みのタイプの小説のお薦めを検索したりだ。それで面白そうなものをポチッとする。便利な世の中です。書店をうろつくくらいの体力をつけなければいけないのですが。そんなこんなで、評判がいいようなので手に取ったのが本作『たったひとつの、ねがい。』しかしあれです。メディアワークス文庫だなんて、その道の老舗で、著者名も人を喰ったようなペンネーム。だめ押しに、可愛らしい女の子イラストの表紙。あれですか、ほんわか恋愛もののラノベって奴ですか?まあ、いいか。ラノベにも面白いもの沢山あるし。ネットの評判もいいんだし。しかもあれですよ、帯には、この物語に、同情の余地なんかない。なんて不穏なことが書いてあります。

 気を取り直して読みます。うーむ。主人公の一人称で進むスタイル。なんかあるかな。物語は主人公である青年が恋人とのデート中にいきなり二人共拉致され、恋人の女性は主人公の目の前で、四人の恐ろしい男達に生きたまま喰われてしまう。(なんだよ、全然ほんわか恋愛ものじゃないよ。)恋人は当然死に、主人公も半身不随になろうかという大怪我で搬送されます。

 そんなリハビリ先で不思議な老婆と出会った主人公は、車椅子や義足の作成技師であるというその老婆に攻撃性の高いまるで兵器のような車椅子を作ってもらい(何故、老婆がこんなことをしてくれるかはこの時点では不明。)それを得たことで、四人の男達に復讐を決意。一人一人殺していくなんて、昔のマカロニウエスタンとかにありそうな流れ。この復讐の殺人の描写も恋人が喰われる事同様結構きつい。こういうの苦手な方にはお薦め出来ません。

 中身はプロローグからの章立てで進みエピローグで締めくくる流れなんですが、復讐する主人公が一人称なのと同様、章によっては復讐される側の男達も一人称になります。怪しいなあ。その上、主人公の名前の表記が漢字だったり、片仮名だったり。怪し過ぎますよ。叙述トリックの匂いがプンプンですよ。

 とはいいつつ、復讐は順調に進みます。そして、最後の一人を殺す。ここ迄で、エピローグを残すのみとなります。そんな中身的にはラストシーン。えっ?てな展開を迎えます。え?そうなん?なんて。

 そしてエピローグ。ここでやはり、人物誤認が仕掛けてあることが分かります。これは前述の情報で、なんとなく分かりましたが。しかし、よく気を付けてみると時系列の誤認も散りばめられているようです。それは結構分かり難く。よって、エピローグはかなり説明に終始する印象です。しかし、作家として、天の声であるナレーターとしての書き方ではなくここも主人公の一人称で進められるので、説明というか説明台詞のような少し不自然な形となり。冗長に感じずにはいられない。

 叙述トリック。面白いし好みです。しかし確か、叙述トリックには最低限のルールが設けてあった気がします。地の文に噓を書いてはならない。解決の為の手掛かりが、全ての読者に提示されなければならない。時系列を正しく判断出来る材料があること。別に誰が決めたとかではなく、これらを遵守しなければ、作品全てを疑うことが出来。作品の体をなさないということになる。ってことですね。

 そういう意味では、本作はルール違反では?と思う部分もあるかと思う。しかし、そこも含めて楽しめば良いのか?グロも含めて。

 

 正解は分かりませんが。少なくとも表紙には騙されます。卑怯です。