一番元気だったのは中3の息子で、それがとっとと先に行ってしまった。目的地は知ってるはずだし、心配していなかったのだけど、見失ってから30分以上、ついにファントムランチについてしまった。その外で休んでいる人たちに聞いても、見かけてないというし、チェックインのカウンターの兄ちゃんも見ていないという。本人のシンボルカラー、オレンジ色のサングラスが目立つので、説明しやすかったのが幸い。
あまりに遅いので、これは一人であるいていて、マウンテンライオンにでも襲われたか、などと思っていたら、ずいぶん遅れてやってきた。道を外れたところで待っていたそうだ。本人いわく、自分はちゃんと待っていたのに、なんで迷子になったのかって。迷子はあなたのほうじゃないですか。そのころには、周りにいた人たちが、皆、知っている人気者になっていた。
ハイキング開始してから約5時間半でファントムランチに到着したことになる。距離約7マイル(11km)、標高差4,300フィート(1,310m)。とにかく下りだけの道で、つま先と膝が疲れた。
ファントムランチのドーム、正式にはドミトリー、つまり寮は、4棟あって、2棟ずつ男性用と女性用に別れ、それぞれ二段ベッドが5台入っていて、それに水洗式のトイレと、温水のシャワーがついて、エアコンもガンガンに効いている。ベッドメーキングも完璧で、見るまでは寝るだけの山小屋を想像していたので、これは驚きの設備だった。熱いシャワーで汗を流してさっぱりして、まだ午後早い時間だったので散歩に出かけることにした。
小川に沿ってのハイキングは、平地と登りは問題ないのだけれど、道が下ると筋肉がぎしぎしする。もう下りはいらない。それでも道を行けば鹿がいて、糸トンボが水溜りのそばで羽を休め、セミがなき、夏の昼下がりの岩影に座ってさわやかな風に身をまかせれば、ここまで来ることができた幸運と体力に、心が満たされる。
谷間から見上げる青い空に白い雲が、とてもステレオタイプで、子供のころの絵日記のようだった。
午後4時からレンジャーがお話をする、というので2時間ほどハイキングしてから、木陰の集会場に行ってみた。レンジャーは、おそらくは20代後半の、美人で、それでとても逞しい女性だった。西洋人によるグランドキャニオン発見の瞬間から、各種冒険、スポーツ、ファントムランチの歴史など、1時間あまりしゃべり続けていた。朝からの疲れもあって、ときどき聞こえてくる声が遠くなったりもしたけど、面白い内容ではあった。





