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立つ鳥、跡を臭わす

当ブログ内において出された排泄物におきましては、当事者が責任をもって、お持ち帰り頂きますよう、ご協力お願い申し上げます。

水道の水をじょうろに入れ、ベランダのゴーヤに水をやる
それが僕の毎日の日課だ

夏の暑さをしのぐべく、通称緑のカーテンと呼ばれるものを作ろうとしている

この緑のカーテンが完成すれば、エアコン代を節約できてかつ、腹が減ればいつでもゴーヤを食べられるというまさに一石二鳥の画期的な試みである


とは言っても自宅には扇風機しかない上に僕はゴーヤが苦手で食べられない
ただ部屋が少し暗くなるだけである



この緑のカーテンは佐藤ケビンに教わったものだ
ちなみにケビンとは今の会社に入社してから、3年の付き合いになる


会社の人達は皆やさしく、誰かが困っていたら気付いた人が助けてあげる。そんなアットホームな職場である


そう言っていると、早速困っている人を見つけた
後輩の女性社員だ。あだ名はぷるちゃん

いったいどうしたのか聞くと、なにやらイヤリングをなくしたらしい

「ない…ない……」と、ずっとうろたえている

余程大事なものなのだろう。一緒に探してあげることにした
周りの人にもイヤリングを見つけたら伝えてほしいとお願いをする


すると、とある社員が「ありましたよ!」と走ってこっちに向かってくる
ほっ、と胸を撫で下ろし、彼に礼を言いながら受け取る

手の中を見るとそこにあるのはイカリングだった


真剣なのか悪ふざけなのかは分からない

とりあえず彼の携帯の僕からの着信音を着信アリにしておいた。今日の深夜にでもかけてみることにしよう


ふと、ぷるちゃんの耳を見るとイヤリングが付いている。そのことを伝えると


「右が取れたんです」


右を見ても付いている


「あっ、爪楊枝持ってきますか?イカリング食べるのに」


要るけど今ではない


「一本だとくるくる回っちゃうから二本の方がいいですよね?」


二本の方が食べやすいけど、ぷるちゃんの右耳 にイヤリングが付いている


「あっ、先輩から見てではなく私から見て右です」


反対側を見てもたしかに付いている


「なくしたのは今付けてるのとは違うイヤリングなんです」


だったら最初に言いたまえ


「それに会社ではなく家でなくしたんです」


その後、ぷるちゃんに対しての小さな反抗として僕はイカリングを爪楊枝三本で食べた



そんなアットホームな職場だったが、ある日突然周りの僕に対する接し方が明らかに変わった

理由はすぐに分かった。僕の家族の一人が犯罪行為をし、警察に捕まったのだ
それまで普通に接していた人がまるで別人のように見えた

軽蔑の視線を痛いほど感じる


あっけなく掌を返された周りに対する苛立ちと、こんなもんだろうな、という諦めの感情が自分の中で入り交じる

こうなってしまえば僕だって皆のことが嫌いだ。昨日までの僕には考えられないことだろう



もうここに僕の居場所はない


次の日から会社には行かなくなった。そのまま自然に引きこもりになる

次第に生活リズムが昼と夜で逆転していく。深夜から朝方にかけての通販を何度見たことだろうか
そして数週間もすればまた夜と昼で逆転していた


電話の音、インターホンの音にビクビクしながら居留守をする毎日
通販の配達に来た人にサインを求められるも自分の手が震えていることに気付く




そして毎日の日課だったゴーヤの水やりも、もう一ヶ月は放ったらかしである
それでもゴーヤはすくすく育ち、緑のカーテンができていた

ゴーヤは強かった

将来、僕に子供ができたら迷わずゴーヤと名付けることだろう
しかし、僕のことだ。子供のゴーヤに対しても放ったらかしてしまうだろう。作るのはよそう




気付けば会社を辞めてから一年が経っていた
このままではいけないことぐらい自分で分かっていた

一度死んだような人生である。恐れることはないはずだ
自分の中で一つの覚悟ができたような気がした




僕は汚い字で書かれた履歴書を見つめながら、震える手で受話器を握った