監督：水田伸生 2023年
主な登場人物：読み（俳優）役柄
【宇田家】
宇田清治郎：うだせいじろう（堤真一）衆議院議員・内閣府副大臣。
宇田晄司：うだこうじ（中島健人）次男で清治郎の議員秘書。
宇田揚一朗：うだよういちろう（中島歩）長男。埼玉県議員。
緒形麻由美：おがたまゆみ（池田エライザ）長女。柚葉の母で恒之の妻。
緒形恒之：おがたつねゆき（浅利陽介）麻由美の夫。市議員。
緒形柚葉：おがたゆずは（佐藤恋和）麻由美の娘で清治郎の孫娘。
【清治郎の秘書】
牛窪透：うしくぼとおる（山崎一）公設第一秘書。
木原誠也：きはらせいや（矢柴俊博）政策秘書。
大島昇：おおしまのぼる（アキラ100％）私設秘書兼運転手
【講演会・選挙事務所】
草川庄一：くさかわしゅういち（平泉成）清治郎の後援会会長
寺中初美：てらなかはつみ（尾野真千子）恒之の支援ボランティア。
【政府】
夏川泰平：なつかわそうへい（金田明夫）内閣総理大臣。
木美塚壮助：きみづかそうすけ（角野卓造）日本新民党幹事長。
湯浅哲道：ゆあさてつみち（升毅）内閣官房長官。
城山敏正：しろやまとしまさ（橋本じゅん）厚労副大臣。
【政治家】
若鷺健太郎：わかさぎけんたろう（池田成志）日本民進党・衆議院議員
九條哲夫：くじょうてつお（小林勝也）日本民進党・衆議院議員。九條派代表。
【埼玉県警】
平尾宣樹：ひらおのぶゆき（山崎育三郎）捜査一課。警部補。
樫田光太郎：かしだこうたろう（中村歌昇）捜査一課。巡査部長。
牧村徹：まきむらとおる（菅原大吉）刑事部部長。警視正。
【マスコミ】
神谷美咲：かみやみさき（美波）「中央テレビ」報道記者。
630文字
上荒川橋建設現場の空撮。
衆議院議員の宇田清治郎の家に、次男の宇田晄司が迎えに来る。晄司は、かつて建築会社を設立したものの倒産し、現在は国会議員の父・清治郎の秘書を務めている。清次郎と晄司を、清治郎の長女の緒形麻由美と孫の柚葉が見送る。
国会の委員会で、内閣府副大臣の清治郎は「上荒川大橋の建設の当初の計画は現在の場所より5㎞上流だったが、5㎞南に変更された。総理の友人の会社の土地に補償金を出すため、国交省や県に圧力をかけたのでは？｣と追及される。清次郎は「そのような事実はございません」と答弁する。
議員室でモニターを見ていた秘書の牛窪は「先生は大丈夫です」と他の秘書に話す。清次郎は「橋の建設の決定権は国交省と埼玉県にある。私は関係がありません」と答弁していた。
埼玉県警で国会中継を見ていた平尾宣樹刑事は「何が一切ございませんだ」と苦々しく言う。5年前、埼玉県警は秋ヶ瀬遊水地拡張工事談合事件を捜査していたが、突然、捜査中止を言い渡された。清治郎の圧力だと思われた。
麻由美の夫である市会議員の緒形恒之の事務所でも、国会中継を見ていた寺中初美が「市議会選挙に影響が出なければいいが」とぼやく。麻由美は娘の柚葉の迎えに行く。
清次郎が車で移動していると、日本民進党九條派代表の九條哲夫から「大変だったね。次のポストは決まりだ」と電話が来る。清治郎は「内閣改造で経済産業大臣に決まりだ」と喜ぶ。
会議室で夏川泰平・内閣総理大臣が「これでこの事件は墓場まで持って行く」と喜び、九條も「上手く行った」と喜ぶ。
麻由美が公園で柚葉を遊ばせていると、ママ友が「幼稚園に入園できるか心配」と話し、別のママ友が「麻由美さんに頼めば。旦那が市会議員だから」と言う。麻由美は嫌々応じる。
麻由美が自転車に柚葉を乗せて狭い農道を走っていると、後ろから来た白いワゴン車が追い越し際に麻由美を突き倒す。転倒した麻由美は気を失う。
車の中で晄司が「上荒川橋は総理の指示だった？」と聞くと、清治郎は「だったら何だ」と怒る。その時、麻由美から電話が来て、柚葉がいなくなったと知らせる。
麻由美が呆然としている現場に、埼玉県警の平尾宣樹と樫田光太郎が駆けつける。平尾は樫田に「誘拐されたのは宇田副大臣の孫娘だ」と教える。平尾刑事らが麻由美に聞き取りをしていると、清治郎の事務所から「事務所のタブレットに犯人からの書き込みがあった」と連絡が入る。「正義を守る会」から「娘を預かった」という文章と、柚葉の写真があった。
清治郎は牛窪に「2億円準備しろ」と指示する。県警の刑事達は清治郎に「付近に防犯カメラがない。メールも外国のサーバーを経由して、誰が出したか分からない」と話す。
すると、再び犯人から書き込みがタブレットに届き「宇田清治郎に告ぐ。我々の要求は金銭ではない。孫娘の命を救いたければ、明日午後5時までに記者会見を開き、おまえの全ての罪を自白しろ」と要求があった。
（タイトル『おまえの罪を自白しろ』）
〔記者会見まで21時間55分〕事務所で清治郎が「私に対する脅迫か」と嘆く。そこに恒之もやって来る。
「中央テレビ」報道記者の神谷美咲は、平尾刑事達に「秋ヶ瀬遊水地拡張工事談合事件の取材が中止され、あの時の悔しさは忘れた事がない」と話す。
清治郎が自宅に帰ると、刑事達が電話に逆探知装置を取り付けていた。麻由美が清治郎に「お願いします。柚葉を助けて下さい」と頭を下げてお願いする。清治郎は「人通りの多い道を通るようにと言っていたのに」と叱る。麻由美は「お父さんが悪いのに、私のせいですか？」と怒る。晄司は「お前のせいじゃない」となだめる。麻由美は「記者会見で全てを話してください。お願いします」と頭を下げる。
清治郎は「あの手がある。永田町に戻る。官房長官と法務大臣に連絡を」と秘書達に言う。秘書は「指揮権を発動させる。自白しても罪に問われない」と教える。
〔会見まで20時間25分〕平尾刑事が麻由美に「恨まれたことは？」と聞く。麻由美は「私が柚葉の代わりに人質になると、犯人に伝えて」と言う。
〔会見まで19時間13分〕永田町国会議員会館。城山敏正・厚労副大臣に清治郎は「指揮権発動は？」と聞くと、城山は「議論は始まっている。しかし、国会議員に罪を問われないのを国民が許すか？」と言う。清治郎は「この後、記者会見して全て話す」と言う。城山が「どのような罪を？」と聞くと、清治郎は「私が決める」と答える。
埼玉県警の捜査本部では、犯人が見つからなかった。刑事部部長の牧村徹が来て「会見するのはどうかな」と言う。平尾刑事は「女の子の命が掛かっているのです」と怒る。
〔会見まで12時間40分〕麻由美は子供部屋で呆然としていた。麻由美は事件現場に行くと、柚葉が農道を走って来る幻覚を見る。夫の恒之が来て泣き崩れる麻由美に「信じよう」と言う。
事務所に清治郎や秘書達が泊まり込んでいた。晄司が牛窪に「父にとって政治とは？」と聞くと、「党の裏の仕事、汚れ役を進んでやっている」と教える。牛窪に小菅から電話があり、官房長官が会いたいと伝える。揚一朗が行くと言うが、清治郎が行く。
〔会見まで9時間31分〕湯浅哲道・内閣官房長官が「記者会見を開くつもりか？」と聞く。清治郎が「開くつもりだ」と答えると、湯浅は「何を話す？離党では済まない。上荒川橋の件は？」と聞く。清治郎は「指揮権次第です」と言う。湯浅は「総理は、警察も含めて、できるだけ手を打つと言っている」と伝える。清治郎は「全ての責任は私一人に。私の後継者は私の親族にすると、総理に一筆書いてほしい」と頼む。
〔会見まで6時間49分〕平尾刑事達は、清治郎の後援会会長の草川庄一に「宇田と対立した人は？」と聞く。草川は「若鷺健太郎。戸畑市青少年研究センターを取り潰して競艇場を移設する代わりに、現在の競艇場の跡地に研修センターを動かし、複合商業施設を造る目論見があった。それに対立していたのが若鷺議員。研修センターの整備管理を請け負っている丸産興業と癒着しているから」と教える。平尾刑事は「誘拐するほどか？」と疑問を持つ。
平尾刑事達は丸産興業の社長に話を聞くと、「研修センターの移転は必要ない」と言う。警察が来たと聞いて、丸産興業の下請けの秋本園芸の社員が、盗まれた車の捜査に来たのかと聞く。3日前に、研修センターの駐車場から白いワゴン車が盗まれており、犯行に使われたと思われた。
清治郎の事務所で平尾刑事は清治郎に「若鷺と対立していたそうだが、どちらのゼネコンが来た？」と聞く。清治郎が渋っていると、晄司が「青柳建設」と教える。平尾が「頼まれたのか？」と聞くと、清治郎は「県と国交省に口添えしただけ」と答える。青柳建設の常務は、清治郎の後輩だった。
〔会見まで2時間50分〕清治郎は「井上きよはるに暴行を加えた件と、青柳建設の子会社の駐車場を高く買い取った件を話す」と話す。
〔会見まで19分〕第1議員会館。小菅から電話で「宇田清治郎の後継者は宇田家の親族から出すと総理が受ける」と知らせ、揚一郎が喜ぶ。しかし、指揮権発動はまだだった。晄司が清治郎に「お願いします。柚葉のために」と願う。
会見が始まる。冒頭で清治郎は「副大臣離任と離党届を出した」と報告する。そして「①7年前、会計の井上清治に暴行を加え、全治一か月のけがを負わせた。表に出せない金を横領したから。②４年前、大学の後輩が常務を務める青柳建設が福島県のバイパス建設に携わった際、青柳建設の子会社の所有地を買い上げるルートに変更するよう強く働きかけた」と2つの罪を公表する。
記者から「上荒川橋は？」と質問が出るが、清治郎は答えずに会見場から出る。
晄司が「全部話すって言ったのに」と怒ると、清治郎は「総理を巻き込むから。それに罪じゃない」と答える。晄司が「犯人が認めなかったら？」と聞く。
国会から帰る晄司に平尾刑事が「上荒川橋は我々も注目していた」と言う。晄司は「全部話すと約束したのに」と嘆く。平尾は「5年前の秋ヶ瀬遊水地拡張工事談合事件の捜査が中止になった。宇田清治郎が止めたと思う」と話す。すると2人に電話が来る。
犯人から「国民をなめるな。今日の午後10時までに再度記者会見を開き、全ての罪を白白しろ。そうでなければ、孫娘の命はない」とメッセージが届く。
〔二度目の会見まで3時間9分〕清治郎の事務所に晄司が戻る。晄司が「上荒川橋の件がなぜ世間に漏れた？」と聞くと、清治郎が「野党が急に質問した」と答える。晄司は「野党に知らせたのは誰だ？」と聞く。清治郎が「当時、国交省から埼玉県の建設局に出向していた官僚の山本が、野党にリークした？総理を失脚するため？山本に指示した人間がいる」と考える。晄司は一人で国交省に向かう。
〔二度目の会見まで1時間30分〕晄司は国交省に乗り込み、山本に、誰の指示で野党にリークしたか詰め寄る。山本は木美塚幹事長の指示だと自白する。
晄司は木美塚幹事長の元に行き、山本が自白した録音を聞かせる。そして「父は、次の会見で全て話す」と教える。木美塚が「私にどうしろと？」と聞くと、晄司は「リークしたと決して認めないでください。事が終われば、黒も白になる」と頼む。
晄司に夏川総理から「清治郎に、次の会見の前に電話してほしい」と電話が来る。木美塚が「早く宇田に連絡した方が」と言うと、晄司は「まもなく総理の座を追われる人より、未来の総理と話す方が大事」と言う。
〔二度目の会見まで9分〕清治郎が会見場に向かおうとすると、若鷺議員など会見を拒もうとする議員たちがやって来る。晄司は清治郎を連れて逃げる。晄司は清治郎に「我々の行動は総理に筒抜けです。総理は宇田家を切り捨てた」と伝える。清治郎は「よくやった」と褒める。
〔午後10時〕二度目の会見が始まる。清治郎は「もう一つ、政治家として犯してはならない罪がある。上荒川大橋の予定地は、今の建設地の５キロ北だった。計画が固まる２ケ月前、ある議員から相談を受け、夏川総理の友人の会社が建設予定地の５キロ南にあるが、その会社は業績が悪化しているため、便宜を図って建設地の計画を変更してほしい、そうすれば次の内閣改造が楽しみになる、と言われた。そこで国交省に交渉し、計画を変更させた」と告白する。
その会見の様子を夏川総理、麻由美と恒之も聞いていた。牛窪秘書は「立派でした」と泣く。
会見直後、犯人より「日の出町緑地を探せ」との書き込みがある。大勢の警察官が夜の「日の出町緑地」を捜索し、孫娘の柚葉を発見する。
麻由美と恒之は病院に行く。柚葉は恐怖のため声が出なくなり、「ママ」と声を振り絞って話す。清治郎は「すまなかった」と駆け寄り泣き崩れる。
議員会館の廊下を歩く夏川総理に記者が「一言お願いします」と話しかけるが、夏川総理は無視して立去る。
晄司は青年研修センターの屋上で平尾刑事に会う。平尾は「新競艇場の移設計画は難しくなり、何も変わらない」と話す。晄司は「子供の頃、この辺でよく遊んだ。変わっていないのはセンターだけだ」と、辺りの風景を見て話す。
晄司は、上荒川橋、青年研修センター、競艇場、車が盗まれた駐車場、柚葉が見つかった日の出緑地、全てが荒川沿いにあると気づく。パソコンで研修センター付近の今と昔の写真を比べる。何かに気づいた晄司は平尾刑事に電話し「力を貸してください。犯人に罪を自白させるために」と頼む。
平尾刑事は神谷に「議員として最後の宇田の会見を、中央テレビで開いてほしい」と頼む。
ホテルの会見場に、宇田清治郎、揚一郎、晄司、緒形恒之の４人が現れる。清治郎は議員を辞職すると発表し、議員バッチを外す。続いて長男の揚一郎が、清次郎の遺志を継ぎ、競艇場の移設を今後も進めていくため、自費で研修センターの地盤調査を行うと発表する。「何の話をしているんだ」と記者達の怒号が飛び交う。「あくまで戸畑市の地元に貢献したい一心だ」と晄司が懸命に釈明するが、神谷を始め、記者達は納得しない。会揚がざわつく中、記者会見は一方的に打ち切られた。
研修センター近くの土地で地盤調査が行われる。神谷もカメラマンを連れて取材に来るが、平尾刑事に「今更なぜ地質調査をするのか。なぜ警察が協力するのか分からない」と言う。平尾は「そのまま報道して下さい」と頼む。急に激しい雨が降り出し、今日の調査は終了する。神谷がテレビで地盤調査を報道する。
その夜、雨の中、車から降りた、合羽を着た２人の人間が、スコップで河川敷の一角を掘り始める。付近には大勢の警察官が隠れ、赤外線カメラで監視していた。警官達が２人を確保しようとする。一人はスコップで平尾に殴りかかり、一人は逃げようとするが、晄司が捕まえる。
あの記者会見は犯人をおびき寄せるためのフェイクだった。柚葉を誘拐した犯人は、寺中初美と弟の勲だった。初美は恒之の事務所の支援ボランティアだった。
初美の父・寺中清則は、最初に上荒川大橋が建つ予定だった場所で、寺中建材工業を経営していた。４年前、上荒川人橋の工事計画によって会社の移転を余儀なくされたが、清則はそれをマイナスにとらえず、工場をもっと大きくしようと事業拡大を狙った。そして、移転に伴い支払われる補償金を当てにした上に、借金までして代替地を購入した。しかし、清治郎と夏川総理人臣との密約によって、上荒川大橋の建設地は変更となり、補償金も支払われなくなった。寺中一家は借金を抱えて全てを失った。父・清則の儲け話を信じて、家を売って作った全財産の4800万円を注ぎ込んだ初美の弟・勲が自己破産する。勲は清則の会社に乗り込み、怒りをぶつける。初美が必死にとめるが、勲は揉み合いのうちに清川を殺害する。弟まで失いたくない初美は、勲と共に荒川の河川敷に清則の遺体を埋める。
それから２年後、河川敷に競艇所の建設構想の話が持ち上がった事を知った初美と勲は、遺体が発見されるのではないかと焦る。しかし、遺体を掘り返そうにも、周りには新たに建設されたマンションが並んでいて不可能だった。そこで、競艇場の計画を潰そうと考える。
初美は競艇場の情報収集をするため、市議会議員の緒形恒之の後援会に入った。競艇場の建設が始まり、河川敷を掘り返されると確実に父親の骨が発見されてしまう。ならば、競艇場の計画に関わっている清治郎を失脚させて、計画を白紙に戻させようと考え、清治郎の孫娘・柚葉の誘拐計画を実行した。清治郎の罪自体は何でもよく、何か語られようとも関係なかった。
清治郎は晄司に自身の過去を話す。商店街で惣菜屋を営んでいた父親が亡くなり、清治郎はアルバイトをしながら高校へ。東京の大学にも奨学金で通い、卒業後は建設省に入省した。党の誘いで政治家を目指し、初当選してからは、心優しい商店街の人達のために生きて、人々を笑顔にすると決意した。自分の命を賭けると心に刻んだが、いつしか党の裏の仕事に手を染め、汚れ役を買って出る立場になっていた。自身の後継者は晄司しかいないと思っており、裏で晄司の会社を潰したと告白する。
晄司が警察署に行くと、逮捕された初美が晄司に歩み寄り「誰が、橋を変えたんですか？誰が、私たちの人生を変えたんですか？」と語り、涙をこぼす。
晄司は寺中建材工業へ行き、寺中一家が幸せに暮らしていた頃を思う。
国会が開かれる。清治郎の地盤を継ぎ、後継者として初当選を果たした宇田晄司が、内閣総理大臣の木美塚壮助に質問する。木美塚は不敵に微笑む。
（エンドクレジット）
（写真は「映画ｃｏｍ」「公式X」より）
