『惑星ソラリス』原作のスタニスラフ・レム『ソラリス』の詳しいあらすじと、映画と原作の違い | アンパンマン先生の映画講座

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映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

クリス・ケルヴィンは宇宙船から発射されたカプセルで「ソラリス・ステーション」に着陸する。ところが、誰も迎えに来ないし、ステーション内は雑然としていた。科学者のスナウトに会うと、到着を知らせてあるのにクリスを見ておびえる。そして、同僚のギバリャンは自殺したと言う。もう一人の科学者サルトリウス以外の者を見かけても取り乱すなと助言し、後で来るように言う。

クリスは部屋でシャワーを浴びた後、棚にあった『ソラリスの歴史』を読み返す。ソラリスは100年以上前に発見された2重星を回る惑星で、軌道が不安定で太陽に呑み込まれるはずだが、軌道を維持していた。探検隊が派遣され、調査の結果、表面の原形質状の海が重力ポテンシャルを変化させて軌道を維持しているようだった。海は生き物か、知性を持つのか、様々な方法でコンタクトが取られたが、成果はなかった。ソラリスの研究は行き詰まり、ステーションの閉鎖の意見もあった。この結論を出すために派遣されたのがクリスだった。

クリスはギバリャンの部屋に入る。実験報告書を読むと、禁止されている海へのⅩ線照射が行われていた。クリス宛に、書名のメモとテープレコーダーを見つけ、ポケットに入れる。

クリスは廊下で、巨体の黒人女がギバリャンの部屋に入るのを見る。クリスは無線室で再びスナウトに会い、ギバリャンは毒物を注射して自殺したと知る。クリスが、隊員の他に誰かがいることを尋ねるが、スナウトは答えない。

クリスは図書室に行き、ギバリャンが指示した本を見つける。「シャナハンの探検隊のカルッチとフェヒネルが乗ったエアロモビールが行方不明になり、カルッチだけが見つかる。捜索隊のベルトンだけが遅れて基地に戻って来て、精神的にショックを受けていた。」と言う内容だった。もう1冊は見つからなかった。

クリスはサルトリウスがいる実験室に行くと、中から子供がいる物音が聞こえる。サルトリウスは廊下に出てきて、扉を閉めてクリスと話す。クリスは彼にギバリャンの死について質問する。扉が中から強い力で押され、ギバリャンはクリスに帰ってくれと頼み、部屋に入る。

スナウトは、ギバリャンに「お客さん」が来ており、クリスにも来たら分かると話す。

 クリスが冷凍室に行くと、凍ったギバリャンの遺体と、黒人の女の死体があった。クリスは自分の正気を疑い、小型人工衛星の軌道を計算して、正気であること確かめる。

 クリスが部屋で目覚めると、死んだはずのハリーが椅子に座っていた。最初は夢かと思ったが、実体だと知り、睡眠薬を飲ませるが効果がない。クリスは彼女の服を脱がせるが、ボタンもファスナーもなく、メスで服を切って脱がせる。2人とも作業服に着替え、発射室に行く。クリスは貨物用小型船にハリーを乗せ、ハッチを閉める。ロケットは中からの強い力で振動を始め、クリスは慌ててロケットを発射させる。スピーカーから「クリス!」と泣きわめくハリーの声が聞こえる。

 クリスはロケットの噴射炎で火傷し、部屋に戻る。スナウトがいて、クリスにお客が来て、ロケットに乗せて厄介払いしたのだろうと言う。スナウトの話では、最初にギバリャンに黒人女のお客が来た。その後、他の隊員にもお客が来て、厄介払いしても同じお客が現れた。クリスはスナウトに、自分のお客は10年前に喧嘩が原因で毒物を注射して自殺した恋人のハリーだと教える。スナウトは、これは異文明とのコンタクトだと言う。海にⅩ線を照射してから、お客が現れるようになった。海が人間の脳の記憶から引き出し、実体化させていると言う。

 ギバリャンが指示したもう1冊はスナウトが持っていた。本の中でベルトンは、捜索中に海面上に庭の様な物や、4mもある裸の子供を見たと報告していた。科学者や医師は、ベルトンが幻覚を見たと結論付けた。

 クリスがまどろむと、部屋の中に再びハリーがいた。クリスは、今度はハリーを抱きしめる。彼女のしぐさは本物のハリーだった。クリスは部屋にある全く同じ2着の服の1着を取り、廊下に出て扉を閉めた。すると部屋の中のハリーは、押すと開く鋼鉄のドアを力任せに引き、真っ二つに破って出てきた。ハリーは血が滴り、肉が裂け、瀕死の状態だった。クリスはハリーを部屋に運んでベッドに寝かせ、ガーゼと薬を取って戻ると、彼女の怪我はほとんど治っていた。

 クリスは手術室でハリーの血液を採取する。顕微鏡で赤血球を拡大し、さらに分子を拡大すると何も見えなくなった。血液を酸で焼くと、すぐに復元した。

内部電話で、クリスとスナウトとサルトリウスの3人で、お客を「幽体F」と呼んで会議する。クリスは「幽体F」はニュートリノで出来ているのでは、と言う。サルトリウスは、「幽体F」は我々の脳に含まれていることを物理的に投影したものだと話す。クリスは、記憶の中で一番頑固な痕跡をコピーしたものだと言う。サルトリウスは、海が我々に対して実験をしているのではと述べ、ニュートリノを安定させている力場を破壊すると、「幽体F」を消滅させられると言う。

夜中、クリスが目を覚ますと、ハリーは先ほどの3人の会話を聞いており、自分は本物ではなく、クリスは自分を嫌いだと言う。クリスは否定し、ハリーを抱きしめる。ハリーは「愛してる」と言う。

ドアの下にスナウトの手紙があり、「サルトリウスがニュートリノ系の安定を破壊しようとしている。そのためクリスに外に出て、海の原形質を採取してほしい」と書かれていた。

クリスはハリーを連れて図書室に行き、『ソラリス研究の10年』を読む。その中には、ソラリスで起こっている「長物」「擬態形成体(ミモイド)」「対称体」など様々な現象が書いてあったが、それらは何も解明されていなかった。

図書室にスナウトが来て、「サルトリウスが、ソラリスが睡眠中の記憶からお客を作り出しているので、昼間のクリスの脳波をⅩ線で送ろうとしている。また、ニュートリノ壊滅装置を作ろうとしている。」と教える。

クリスはギバリャンの夢を見る。ハリーは実験室の液体酸素を飲んで自殺した。液体酸素の腐食作用により、喉も気管も肺も焼けただれ、臨終だった。しばらくするとハリーは喘ぎ、痙攣し、生き返る。ハリーは、クリスが寝ている間にギバリャンのテープレコーダーを聞き、自分が複製だと知り、自殺したのだった。そのギバリャンの音声が、クリスの夢の正体だった。ハリーはクリスに「私の事を嫌いでしょ」と問う。クリスは自分が自殺に追いやった本物のハリーではなく、今のハリーを愛するようになっていた。

次の日、スナウトの手紙に、サルトリウスがソラリスの海にⅩ線を照射しようとしているとあった。クリスはハリーと、スナウトのいる無線室に行き、ハリーは廊下で我慢して待つ。クリスはスナウトに、ハリーは自分が偽物と知って自殺したが生き返ったことを話す。クリスは、彼女を連れてここから出ていくと言う。スナウトは、彼女のニュートリノ系はソラリスの磁場だけで安定で、離れるとどうなるか分からないと教える。クリスの脳波をⅩ線にして海に照射したとき、クリスがハリーに消えてほしいと願っていたらどうなるか、クリスは悩む。

クリスとハリーは実験室に行き、サルトリウスがクリスの脳波を取る。脳波をⅩ線に変調してソラリスの海に照射した。

クリスとハリーは図書室に寄る。クリスはソラリス学上の様々な仮説を集めた『グラヴィンスキーによる概説書』を読む。その隣の小冊子に「非ヒューマノイド型文明と人間がコンタクトに成功することはあり得ない」と書いてあった。

6日過ぎても何の反応もなく、ステーションを移動してもう一度、クリスの脳波のⅩ線が2日間海に照射された。2日後、最後にもう一度実験が行われた。10日たってもステーションでは何の変化もなかった。15日後、海に活発な活動が見られ、燐光を発した。

 しばらくぶりにスナウトがやって来る。彼は酔っ払って、誰のせいでこうなったかと文句を言う。

 クリスが目を覚ますとハリーはいなかった。スナウトがクリスにハリーが書いた手紙を渡す。ハリーが自分から頼んだと書いてあった。サルトリウスが作った小型の非安定化装置でニュートリノ系を破壊し、ハリーを消滅させたのだった。

 クリスはステーションに残り、報告書をまとめて地球に送った。クリスはステーションの外に初めてヘリコプターで出て、擬態形成体の上に着陸する。クリスは、ハリーが戻って来るか分からないが、奇跡を期待して待ち続けるのだった。

 

注:ポーランドの作家スタニスワフ・レム原作『SOLARIS』の日本語翻訳は2種類ある。飯田規和訳『ソラリスの陽のもとに』早川文庫版(1977年)【冒頭の写真左】はロシア語訳からの再翻訳で、検閲により一部削除されていた。最近、ポーランド語から直訳の沼野允義氏訳『ソラリス』早川文庫版(2015年)【冒頭の写真左】が出版された。上記のあらすじは、沼野訳版を元にしている。あらすじにするとほとんど差異はないが。

 

原作と映画の違い

①映画の冒頭に原作にはない地球のクリスの家の場面が約40分もある。原作ではベルトンの報告書をクリスが図書室の本で読む。映画ではバートンはクリスの父の友人で、バートンの審議会のビデオを見ると変更され、映画の方が分かりやすい。ただし、地球の場面はゆったりと映像が流れ、間延びした印象を与える。特に日本の首都高速道路を自動車が走っているだけの映像が5分も流れるのは、長すぎると思う。

②原作ではギバリャンの「客」は巨体の黒人の女だが、映画では青い服の少女である。

③原作ではサルトリウスの「客」は子供のようだが姿を見せない。映画では小人である。

④原作ではハリーはクリスの恋人で結婚はしていないようである。映画では妻である。

⑤原作ではクリスが自分からハリーの血液を採取するが、映画ではサルトリウスから促される。

⑥原作はハリーがギバリャンのテープレコーダーを聞いて自分が複製だと知るが、映画ではクリストスナウトの会話から知る。

⑦原作では、図書館にはクリスがソラリス関係の書籍を探しに来るだけ。映画ではスナウトが誕生日祝いにクリスとサルトリウスを呼ぶ。無重力の場面も映画独自である。絵も映画独自である。

⑧映画では、クリスがハリーに父親が撮影したフィルムを見せる。また、夢の中に母親が出てくる。原作では地球の場面はないので、父親も母親も登場しない。

⑨原作は、クリスがソラリスに残るところで終わる。映画では、その後、クリスが地球に戻り自分の家で父と再会するが、実はソラリスが作った物だった。

 その他に、原作ではソラリスの書籍の説明がかなり長く続き、読むのに閉口した。このように原作独自および映画独自の表現があるので、細かい違いがたくさんある。

 なお、スタニスワフ・レムの『SOLARIS』を原作にした映画は、このアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』(1972年)の他に、スティーブン・ソダーバーグ監督の『ソラリス』(2002年)がある。こちらも機会があったら紹介しよう。