もうすぐ七夕ですね

短冊に願い事を書いて、笹に飾るようになったのは江戸時代からですが、当時は、文芸の上達に関する願い事を書いていたようです

赤・緑(青)・黄・白・黒(紫)の五色の短冊が基本とされ、中国の陰陽五行説に基づき、魔除けの意味もあったようです


前回に引き続き日本の夏の伝統色と、夏にちなんだ日本画をご紹介します 



(黄色系の伝統色)
〈向日葵色〉ひまわりいろ


向日葵の花びらのような黄色です

向日葵は、北米原産で江戸中期に日本に伝わりました


向日葵を描いた日本画と言えば、
鈴木其一 “向日葵図” です


江戸琳派の祖、酒井抱一に師事し、事実上の後継者となった鈴木其一の向日葵は、明るく伸びやかで、向日葵の力強さが全面に出ています

葉っぱの微妙な色彩を、緑~茶色にぼかすことで、彩度の対比が生まれ、向日葵の黄色が鮮やかで生命力に溢れています

色彩心理的に黄色は、『明るい』『元気』『希望』等のプラスイメージがありますが、この向日葵の絵からも同じ印象を受けます




(赤系の伝統色)
〈薔薇色〉ばらいろ


西洋薔薇の伝来は明治時代以降で、その艶やかな花の姿と鮮やかな色合いから、希望に満ちた明るい世界や未来を表現する色として親しまれています

『薔薇色の人生』と言う言葉は、幸せな明日を予感させる希望に満ちた赤を表し躍動的で夏らしい色合いです



薔薇を描いた日本画と言えば、
速水御舟 “薔薇” です


これは速水御舟の写生帳に描かれた薔薇です

御舟の写生帳には、植物や生き物が数多く描かれていて、その細やかな線と色使いにセンスの良さが表れています




(青系の伝統色)
〈空色〉そらいろ


よく晴れた日の昼間の空の色を表し、天色(てんしょく)とも言います


空色のような明るい青が美しい日本画と言えば、
伊東深水 “ほたる” です



撫子柄の絽の着物、桔梗柄の帯、団扇には萩の絵が描かれ、すべてが初秋の草花です

右手奥の笹や、左上のほたるのほんのりとした黄色までが涼しそうです

着物や帯の柄が秋の草花で、色合いを夏の伝統色でまとめた画家の匠さが完璧なまでに絵に表れていますね

まるで行く夏を惜しむかのようです



(橙色系の伝統色)
〈朱色〉しゅいろ



日本の夏の伝統色で橙色系は少なく、中国の陰陽五行説では、朱色は南や夏、火を象徴しています



朱色のような橙色が美しい日本画(版画)と言えば、
川瀬巴水 “嶋原九十九島” です


朱色に染まった入道雲と松の緑のコントラストが真夏の夕暮れでしょうか…

朱に染まった穏やかな海を、舟でゆったりと帰路につく光景は、旅情に溢れています

旅の版画家と言われた川瀬巴水は、様々な地方を旅してスケッチしていたようです




(紫系の伝統色)
〈菖蒲色〉しょうぶいろ


梅雨の頃に咲く紫色の花の一つに、菖蒲がありますが、あやめや、かきつばたと、とても似ています

余談ですが、あやめは湿地ではなく、畑のような乾燥したところで咲き、菖蒲とかきつばたの違いは、花びらの根元に黄色い模様がある方が菖蒲です



花菖蒲を描いた日本画と言えば、
歌川広重 “堀切の花菖蒲” (名所江戸百景)です


晩年の傑作と言われた広重の江戸百景は、色彩はもちろん、斬新な構図作品が多く現代のモダンアートのようです

堀切の花菖蒲は、現在の葛飾区堀切二丁目の堀切園に咲く海抜ゼロメートルの湿地帯を菖蒲の目線で描ききっています

菖蒲の花を画面一杯に大きく配置して、人物を小さく描く事で、植物が生き生きと生命力に溢れ、名所江戸百景の中でも夏の代表的な作品と言えるでしょう


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日本の夏の伝統色は、明度の高い色彩や、鮮やかな色合いが多い反面、梅雨時の霞んだようなグレイがかった、いわゆる鼠系統の色彩が多い事も、他の季節と違う特徴が表れています






色を楽しむ素敵なあなたへ…

最後までお読みいただきありがとうございます💕