日差しがギラギラと照りつける夏は、草木が生い茂り、虫や花、鳥や動物たちも活発に動き回りエネルギーに溢れています

高温多湿の日本の夏は、湿度を含んだような、霞みがかったような色彩がある一方、涼やかな青のグラデーションや紫陽花の花のような色のグラデーションなど、爽やかな色も数多く見られます

日本の夏の伝統色と夏にちなんだ日本画をご紹介します



(紫系の伝統色)
〈薄色〉うすいろ


日本の伝統色として、薄色は紫の薄い色の事を言います

古代より、高貴な色と言えば深紫(こきむらさき)で、濃色(こきいろ)とも言われ、位の高い人のみが着用でき、庶民は禁色とされていました

紫色をなんとかして着てみたいけど禁止されている…でも薄色なら着用しても大丈夫かしら?…
と思わせてしまうような庶民の憧れの色だったようです



薄色の芥子を描いた日本画(版画)と言えば、
小原古邨  “芥子に金糸雀” です


古邨の描く花鳥画は、繊細な線と補色の色使いに気品があり、植物や鳥などの生き物に向けた優しい眼差しが感じられます

色彩が薄紫と黄色の補色に、緑の濃淡で華やかですが、グレーがかった落ち着いたトーンで統一されているため穏やかな印象です



(緑色系の伝統色)
〈裏葉色〉うらはいろ


読んで字のごとく、葉の裏の色をさしています

具体的には葛の葉裏からつけられた伝統色です(写真は芭蕉の葉です)

鮮やかな表の葉の緑色とは対照的で、薄白い緑色です



裏葉色のような緑色が美しい日本画と言えば、
奥村土牛  “鳴門” です


土牛婦人の実家、徳島の行き帰りで目にした鳴門の渦を、画家は何枚も写生帖に描いたそうです
荒々しい海で船が容易に近づく事ができなかった為、体を紐で巻き付けて写生したようです

薄白い緑色の海はまるで地中海のような色彩ですが、季節は春から初夏だったのでしょう

白緑と言う顔料が使われた鳴門の白い渦からは恐怖感はあまり感じられず、画家の心象風景を見ているような穏やかさがあります





(青系の伝統色)
〈藍色〉あいいろ


日本の伝統色で最も親しまれた藍色は、蓼藍から染められ、藍甁に浸す回数により微妙な色のバリエーションがあります

以前のブログ、日本の伝統色…〈庶民の日常色 青系あれこれ〉 でご紹介しています




藍色が美しい日本画と言えば、
上村松園  “蛍”です


松園が描く女性の絵はたくさんありますが、この蛍は理想的な女性像を描いているのではないでしょうか?

夏の夜、藍染の浴衣姿で蚊帳を釣っていると、どこからともなく現れた蛍に、優しい眼差しで見つめている女性の物腰が柔らかく、白い腕とちらりと見える右足が色っぽいですね

完璧な強い女性像を描いた序の舞も素敵ですが、このような日常のひとこまを描いた絵から、日々を丁寧に生きている姿が伝わって来ます




(無彩色の伝統色)
〈卯の花色〉うのはないろ


卯の花は、ユキノシタ科の樹木で、ウツギの別名です

卯の花色は、初夏から夏に咲くウツギの花びらのような白い色が由来です



卯の花のような白が美しい日本画と言えば、
寺崎広業  “夏のひととき” です


五島美術館で数年前にこの作品と出会い、白い絽のような着物姿の女性に目を奪われました

白地の着物は見た目に涼しげで、朱色の入った博多帯と水色がアクセントになった帯締めのセンスの良さに見とれてしまいました

庭の花を切って桶に入れ、一休みしているのでしょうか…

室内で涼しげな花を活け、夏を楽しむ光景が浮かんできますね




(ピンク系の伝統色)
〈石竹色〉せきちくいろ


石竹や撫子、牡丹の花ような紫がかったピンク色です

蓮の花にはピンク色、黄色、白などがあり英語色名のロータスピンクと同じ色です




蓮の花が美しい日本画と言えば、
伊藤若冲  “蓮池遊漁図” (動植綵絵)です

 
実際の蓮池とは違い、葉っぱをデフォルメして大胆に配置し、蓮の花の色を際立たせています

泥の池は水が濁りやすいと言われる蓮池に、魚がすいすい泳ぐ姿がなんとも涼しげです

白い蓮の花が一輪在ることで更に涼を呼び、若冲の遊び心を感じます



🎋🌌🎐🎇🎋🌌🎐🎇🎋🌌🎐🎇🎋🌌🎐🎇



夏の伝統色はまだまだたくさんあります

続きは次回に…^^




色を楽しむ素敵なあなたへ…

最後までお読みいただきありがとうございます💕