【16】
久流さんに問い詰められて、梶さんは重い口を開いた。
梶
「……牧野が…」
「牧野が居るかどうか確かめに来ただけだ」
●●
(…え?…わたし…?)
梶さんと一瞬目が合ったけれど
バツが悪そうに逸らされてしまった。
黒崎
「……牧野さんが居るか確かめて…」
「それでどうするつもりだったのかな?」
梶
「それは………」
梶さんは少し言いよどむ。
それでも何かを決意したように、真っ直ぐに黒崎さんを見据えた。
梶
「牧野は誰にも渡しませんから」
●●
(………!)
久流
「答えになっていませんね」
久流さんがやれやれといった風に首を振った。
そして黒崎さんは梶さんの心中を推し量っているように、見える。
私は梶さんの言葉に、ドキドキを抑えられなかった。
西園寺
「とにかくっ!」
「リョウちゃんにはこの騒動の罰として…」
梶
「な、なんですか…?」
西園寺
「アタシに付き合ってもらうわよ!」
「さあ、来なさいっ!」
西園寺部長は梶さんを引き摺り、どこかへ連れ去ってしまった。
【17】
あの騒動があった後。仕切りなおしてヒナちゃんと温泉を堪能したあと、部屋に戻った。
●●
(宿に来てからバタバタして落ち着く暇もなかったな…)
●●
「これでやっと、ゆっくりできる」
●●
(夕飯までまだ時間があるけど、どうしよう?)
選択肢
1 もう1回温泉に入ろうかな (梶) ←これ
2 図書室に行ってみようかな (久流)
3 庭に行ってみようかな (黒崎)
●●
(こんな高級旅館を貸切なんて)
(もう二度と経験できないよね)
●●
「せっかくだから、もう一度お風呂に行こうかな」
意気込んで立ち上がると、くらっと眩暈がした。
●●
「……のぼせてるのかな?」
結局、部屋で大人しく、お茶を啜ることにした。
【ノーマル18】
コンコン
扉が軽く叩かれる音がして振り向くと
梶さんが顔を覗かせていた。
梶
「ちょっといいか?」
●●
「……梶さん!」
驚きながらも梶さんの元に駆け寄って、廊下に誰も居ない事を確認する。
●●
(…誰にも見られてない)
●●
「早く入ってくださいっ!」
梶さんを素早く部屋に押し込めて、バタンと扉を閉めた。
座布団を勧めると、梶さんさんはそこに胡坐を掻いて座った。
●●
「梶さんっ!」
梶
「は、はいっ!」
●●
「聞きたいことが山ほどあります!」
梶
「………ですよねー…」
梶さんはわたしの剣幕に押され気味だったけど
質問にちゃんと答えてくれた。
梶
「あの後、西園寺部長に、こってり絞られちまった」
梶さんは、しゅんとうなだれる。
●●
「ちなみに何があったのか、聞いてもいいですか?」
梶
「……いや…」
「聞かない方がいいだろ」
「てか、俺が思い出したくもないっ!」
梶さんの中で、何かの記憶が蘇ったのか
瞬時に顔色が、青くなってしまった。
【18~EXシナ】
梶
「……よかった」
梶さんが安堵感を滲ませた声で言う。
梶
「やっと解放されて、牧野のトコに来たんだ」
「もちろん、バレないように……」
「細心の注意を払ったんだぜ?」
●●
「当たり前ですっ!」
あの騒動の後だ。
不安から、梶さんに対する口調が、ついキツくなってしまう。
梶
「見つかったらまた、何をされるか分かったモンじゃねーからな」
そう言って梶さんは笑った。
それから私の顔を見て、困ったように頭を掻く。
●●
「梶さん……」
わたしがよほど、不安そうな顔をしていたのかもしれない。
梶さんは小さな子供をあやすように、私の髪を撫で、柔らかい笑顔を見せた。
梶
「ん……。髪、まだ少し濡れてんな」
●●
「………っ」
梶さんは、私の髪を掬うと、指に巻きつけて弄ぶ。
時々鼻を近づけて、においを嗅ぐんだけれど、
彼の顔が近づくたびに、甘い期待が膨らんでしまう。
●●
(……んっ…梶さん…)
梶
「すげーいい匂いがする」
「風呂上りだからか?」
梶さんが言葉を発すると、吐息が頬に掛かってくすぐったい。
その部分が高潮していくのを彼に知られたくなくて
ほんの少し顔を背ける。
●●
「……いつまで嗅いでるんですか?」
梶
「んーー‥もうちょっとだけ…」
●●
(もう、梶さんたら…)
目を細めて気持ち良さそうな表情をするから
ダメとは言えない。
…と、その時、彼の微かな声が耳に届いた。
梶
「……風呂。入りたかったな…」
●●
「え?」
梶
「牧野と風呂に入りたかったんだよ…」
●●
「……それで、覗きを?」
呆れ半分、恥ずかしさ半分で聞いた私に、意外な言葉が返って来た。
梶
「確認しに行ったんだ…」
「つか、牧野が悪いんだからな?」
「お前が俺を、誘惑するから……」
●●
「……っ!」
首筋に、小さな痛みが走った。
遅れて梶さんが、そこを強く吸っているのだと、気づく。
●●
「……ん」
少しして、よくやく唇が離れた時には、じんわりとした鈍い痛みが
熱をもって広がっていた。
梶
「俺。どんだけ本部長にシメられようと…」
「……おれは、お前を諦めない」
●●
「梶さん……」
梶さんの顔が近づいて来た。
意識したわけでは無いのに目蓋が閉じて、視界が暗くなる。
そして唇に与えられる柔らな感触に
わたしは、溺れた…
●●
「……んぅ…」
梶
「誓うよ」
梶さんがまた、わたしの口に、口づける。
梶
「もう牧野を不安にさせるようなこと、しねーから」
●●
「………」
梶さんの真剣な眼差しに誘惑されるように、
わたしは強くうなずいた。
【19】
梶
「ほんとに、悪かったな」
●●
「もうしちゃダメですからね!」
梶さんが充分反省しているのは分かっていたけど
彼の申し訳なさそうな顔を見ていたら、他に掛ける言葉が浮かばかなった。
●●
「そうだ、梶さん」
「ヒナちゃんにも謝っておいて下さいね?」
梶
「分かってるよ」
ヒナちゃんを追い掛け回していた梶さんを思い出して
私は念を押すように言った。
梶さんも苦笑している。
梶
「じゃあ、また後でな」
梶さんはまた、私の頭を軽くポンポンと叩くと、扉に向かう。
梶
「あ、そうだ」
●●
「?」
引き返してきた梶さんは、何かを手に持っていた。
それを私の目の前にチラつかせる。
●●
「あ……どこから持って来たんですか?」
梶
「そこに置いてあったぞ?」
それはこの部屋。「すずらんの間」の鍵だった。
梶
「寝る時は、鍵。ちゃんとかけとけよ?」
「どこにケダモノが潜んでるか、分かんねーからな」
意味深な笑みを顔に浮かべて、梶さんは去って行った。
【20】
梶さんが部屋を出て行った、直後ーー
朝比奈
「そろそろ夕食の時間ですよぉ~~」
西園寺
「牧野ちゃん。迎えに来たわよ~~」
ヒナちゃんと西園寺部長が、部屋に入って来た。
内心ヒヤヒヤしつつ、それを笑顔で迎える。
●●
「は、は~~~い」
西園寺
「………」
●●
「な、なにか?」
西園寺部長は部屋に入るなり、
何かを探すように、キョロキョロしている。
おまけに、鼻もクンクンさせていた。
西園寺
「う~~~ん」
●●
(なにか嫌な予感がする……)
ついさっきまで、ここに梶さんが居た事が
西園寺部長にバレやしないかと、気が気では無い。
西園寺
「んーー…」
「牧野ちゃん、アンタもしかして…」
●●
「……な、なんでしょう?」
(もしかして気づかれた?)
西園寺部長が、何か言いかけたその時だったーー
【21】へ続く。
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