FM223_03「江戸時代の海外知識」展から (Ⅲ) ◇国立公文書館 2025/10/12
国立公文書館の企画展「内閣文庫140周年記念 世界へのまなざし -江戸時代の海外知識-」(会期:2025年10月11日-12月7日)に、その展示品をみる。
(写真は東京都千代田区北の丸にて2025年10月12日撮影)
■展示Ⅲ章「異国を調べる・考える」から
加模西葛杜加[カムサスカ]国風説考 (『北辺紀聞』所収) 工藤平助(1734-1800)
仙台藩医師によるロシア研究書

北夷分界余話 間宮林蔵(1775-1844)述 村上貞助(1780-1846)録編
紅葉山文庫旧蔵 重要文化財(1991指定) 「間宮林蔵北蝦夷等見分関係記録」
として『東韃地方紀行』、『北蝦夷島地図』とともに指定。

アイヌの生活をえがく「使犬食餌」(犬に餌を食わせる)。
展示解説パネルの本文をそのまま引く。
「アイヌの人々にとって犬は生活に欠かせないものでした。本資料によれば、1つの家で、5~6頭、多い家は12~3頭を飼育しました。犬への食餌は1日に1~2回。生魚ではなく、干魚を煮たものを与えていました。子犬には、魚骨を与えず身を小さく切って与えました。」(*3)
アイヌの生活をえがく「獲獺」(カワウソを獲る)。
「カワウソを捕獲するには、図のように自発弓を作りました。河辺に仕掛けておいて、カワウソが垂れた糸の先の魚を引っ張ると矢が発射されるようになっていました。」(展示解説パネルより)
鳥名便覧 曾槃(そうはん 1758-1834)ほか
薩摩藩第八代藩主、島津重豪(しまづ しげひで 1745-1833)が医者・本草学者の曾槃らに命じて編纂させた鳥名辞典。(展示解説パネルより)
西洋銭譜 朽木昌綱(くつき まさつな 1750-1802) 昌平坂学問所旧蔵
『西洋銭譜』に収録された「1764年にオーストリアで発行された、オーストリア大公マリア・テレジア(1717-1780)のターレル(ターラー)銀貨」である。
一角纂考 木村蒹葭堂(きむら けんかどう 1736-1802) 寛政七年(1795)刊。
昌平坂学問所旧蔵
大阪の豪商、文人である木村蒹葭堂がもっぱらイッカクを論じた書。
「イッカクは、北極圏に生息する小型のクジラです。イッカクの牙(角のような部分)は、想像上の動物である「一角獣の角(うにころる)」とされ、強い解毒作用があると信じられてきました。しかし、ヨーロッパでの北極捕鯨の活発化と専門書の登場により、クジラの牙であることが証明されました。」
この研究成果が『一角纂考』に反映されている。
「研究のために巨費を投じた蒐集品は、死後500両で昌平坂学問所に収められ」た。(展示解説パネルより)
紅毛雑話 森島中良(1754-1808) 天明七年(1787)刊 外務省旧蔵
(つぎの画像につづく)
上掲「ヱレキテル」の図の説明(写真パネル)。平賀源内の実験のようす。
物類品隲[ぶつるいひんしつ] 平賀源内(1728-1779) 宝暦十三年(1763)
昌平坂学問所旧蔵 (つぎの画像につづく)
「鼉龍」(だりゅう)の項、および「蛤蚧」(こうかい)の項に対応する図がつぎの画像。
鼉龍「○蛮産紅毛語カアイマン」 鼉龍は中国の想像上の動物の名。
蛤蚧「○蛮産紅毛語ハアガテス」 蛤蚧は中国南方にいる爬虫類の一種。
紅毛語はオランダ語で、漢語を訳語にあてている。実態がおなじわけではない。
なお「蛤」はここでは貝類(ハマグリ)ではなく、両生類(カエル・ガマなど)の総称。
動物の液浸標本も薬品会(やくひんえ)の出展のひとつ。
外国産の爬虫類。右が「鼉龍」(だりゅう)、左が「蛤蚧」(こうかい)。(*4)
泰西図説 朽木昌綱 昌平坂学問所旧蔵
『泰西図説』の表紙。外題は「泰西輿地図説」である。
訂正増訳采覧異言 山村昌永(1770-1807) 享和二年(1802) 紅葉山文庫旧蔵
『采覧異言』は、新井白石が第七代将軍徳川家継に海外事情を説明するため、正徳三年(1713)に著した世界地理書。いわば漢文版『西洋紀聞』である。
本書は白石『采覧異言』の増訂版というかたちをとってはいるが、白石以来約90年間の新知識をふまえた新著にちかい。(展示解説パネル)
『訂正増訳采覧異言』の表紙。外題は「増訂采覧異言」である。
満文強解 高橋景保(1785-1829) 昌平坂学問所旧蔵 (つぎの画像につづく。)
文化元年(1804)長崎に来航したロシア使節レザノフが持参した国書の写しの翻訳。
景保の自筆本。
展示は著者「附言」のはじめの一葉(画像右)と末尾の葉(左、写真パネルの展示)。
「文化七年庚午秋九月」(1810年)の識語がある。
(高橋景保の満洲語 ⇒ FM223_S1 に写本の細部をしめす。)
満文強解 高橋景保
「国書」冒頭の一葉(画像右)とそのつぎの葉(左)。いづれも写真パネルの展示。
寛政暦書 紅葉山文庫旧蔵
「垂揺球儀」天体観測のための時間の計測機器。
『寛政暦書』の表紙。献上本にふさわしい装丁である。
寛政暦は寛政十年(1798)から採用されたこよみ。吉宗の遺志を継いだ松平定信(1758-1829)たちが企画し、高橋至時(たかはし よしとき 1764-1804)と間重富(はざま しげとみ 1756-1816)ほかが西洋天文暦学の漢訳書『暦象考成』をもちいて完成させた。太陽と月の運行について、ケプラーの楕円軌道をも考慮した暦であった。(展示解説パネル)
本企画展は会期中こまめに展示替えがある。観覧無料。(*5)
(大井 剛)
(*3) アイヌの生活の画題「使犬食餌」にある「食餌」は「餌を食ふ」で、動詞(他動詞)と名詞(目的語)の構成。「使犬食餌」を「犬をして餌を食はしむ」とよむ。あるいは、食と餌とをともに動詞(自動詞)ととり、「犬をして食餌せしむ」とよむこともできる。
解説本文にある「犬への食餌」の「食餌」は「しょくじ」とよむ名詞で、人の「たべもの」や動物の「えさ」と同義。餌(ジ、現代漢語 er3 [しいてよめばアル] )は、もと餅米のだんごをさし、粉食からきている。

展示解説パネルの表題「犬にえさをあげる」はいただけない。本文にくりかえしている餌を「与える」というまっとうな語を、なぜ表題にも採用しないのか惜しまれる。
(*4) 鼉龍(だりゅう)はどんな字を書くのか、書いてみろといわれても困惑するが、鼉龍が注目をあつめたのは奈良市の富雄丸山古墳で出土した「鼉龍文盾形銅鏡」である(2022年10月からの第6次発掘調査で「蛇行剣」とともに発見された)。
日本の古墳にはすでに「鼉龍鏡」とよばれる円形の銅鏡の存在が知られていた。鼉龍と名づけられたものの、中国の鼉龍を想起させるかたちをしているだけで、中国の様式や思想を輸入した図像であるかどうかは定かでない。
(*5) 本展の展示替え一覧。(会場のパネルより)
国立公文書館の本展ウェブサイトに「展示替え一覧表」(PDF)がある。
(更新記録: 2025年10月12日起稿、10月21日公開、10月24日修訂)


















