FM221 くさいものに蓋◇トイレットの科学 2025/09/12
「ウイルス感染を予防するために水洗トイレットの便器の蓋をしめてから水を流すこと」という伝説がしばしば語られ、かわやに注意書きが標示されている。もちろん洋式の便器にかぎる。
(和式にも木の蓋のあるものがあった。これはニッポンむかしばなし。)
これを伝説といったのは、「科学的」な立証が不確実だったからである。
関連記事: FM103「手あらいのあとで」2020/05/20 [2020年06月に掲載]
[webpage] ameblo.jp/477492/entry-12916055475.html
◇
ウェブ上の《AERA digital》2025年9月12日によれば、ほんとうに蓋をしめて流したほうがよいのか、産業技術総合研究所センシングシステム研究センターなどが実験をおこなった。結果の記述を引用する。(「トイレ」の表記も原文のまま。) (*1)
「実験1【ふたを閉めないとき、飛沫はどのくらい飛び散るか?】
水を流したとき、目に見える大きな水の粒と、肉眼では見えないほど小さい水の粒(エアロゾル)が混じった飛沫が空中に飛び散った。飛沫は、便器の手前(自分の足があるほう)15㎝くらいまでもれ出し、高さは最大で40~50㎝に達した。飛沫がたくさん集まるのは、便器の手前5~10㎝、高さが40㎝くらいまで。
水滴の飛び散り方は湿度によって違い、湿度が高いほど、飛沫が発生・拡散しやすいことも明らかになった。」
「実験2【ふたをすると、飛沫の飛び散り方はどう変わるか?】
ふたを閉めて水を流すと、便器の上に飛沫が飛び散ることはなくなった。隙間のある便器の手前から15㎝くらいまで飛沫がもれ出しているが、その量は、ふたを開けて流したときの4分の1程度だった。ふたの効果がはっきり表れたことになる。」
「実験3【便器からもれ出たウイルスは、トイレのどこに付着するか?】
便器にふたをして、ウイルスの入った水を流したとき、飛沫に混じったウイルスがトイレのどこに付着するか調べてみた(実験では、ヒトへの感染の心配がない無害なウイルスを使った)。すると、ウイルスはトイレの壁(両面)や便座の裏面にたくさん付着することがわかった。」
「さまざまな場所に付着したウイルスの量は、全部合わせても、流す前の便器内にあった量の10万分の1以下だった。この量のウイルスなら、体内に入ったとしても、よほど悪い条件が重ならない限り、感染する可能性はほとんどない」という。
そこで対策としては、
「・トイレの水を流すときはふたを閉め、できれば便器から15㎝以上離れて操作するとよい。
「・トイレ掃除をするときは、便器の中やふた、便座だけでなく、壁も消毒用アルコールなどでふき取るとよい。」
(以上、「 」内は AERA からの引用。その記事には詳しい図版がついていたが、ここでは省略。)
--水洗の飛沫とともに便に含まれるウィルスや細菌が飛び散るのを抑えるために、「蓋をしめて流す」とよいという伝説に「科学的」な根拠があたえられた。伝説は実験的事実となった。
--さて、そこで考える。
・その壹。さきの伝説はいわゆる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行にともない流布した。しかし、コロナ・ウイルス(SARS-CoV-2)は人の呼気(いき、せき、つば)によって空中に放出される。便所や便器とは関係ない。したがって、コロナ感染にかんしては伝説(憶説)のままである。
・その貳。このたび研究所(産総研)が実証実験をおこなうまで、わが邦では「科学的」な検討が確実にはなされなかった。しなかったとは言わないが、結果が「あいまい」なままであった。「日本とは水洗トイレのしくみが少し違う海外では科学的に確かめた研究があったが、日本で広く使われている水洗トイレでの研究は、科学的に十分ではなかった」という(上記《AERA》から引用)。ああせいこうせいと「科学的」に指図したやつらは、根拠の「あいまい」な議論にあけくれていたのだ。一事が万事。
・その參。世にいうコロナ・ワクチンの有効性について、誰か実証的調査をおこなったか。コロナ騒動のあいだ、国の対策の先頭にたち、のべつマスメディアに登場して御苦労さんだった尾身さんは、ことし(2025年)になって「ワクチンでコロナが防げるわけではない」と、あるTV放送番組で発言して、そのことが報道され、「あとだしじゃんけん」と悪口をきかれた。尾身茂さんは、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策分科会長として、記者会見のたびに「そのこと」をつけくわえ、ただしワクチンが重症化をさける効果はあるだろうと述べたが、感染を「防げるわけではない」ことをメディアが報道しなかったのである。(*2)
新聞社や放送局は、薬屋からナンボ鼻薬をかがされたんじゃ。
・その肆。「科学的」という話は、眉に唾をつけよ。
(大井 剛)
【見出し写真】 コロナ・ウイルスの電子顕微鏡写真。
国立健康危機管理研究機構(JIHS) 感染症情報提供サイト「コロナウイルス感染症」
[webpage] id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/coronavirus/010/coronavirus.html
(2021年09月30日改訂) いまだに。
その図1。本項記事の末尾においた概念図も、出典はおなじ図1。
(*1) 《AERA digital》ウェブ版、2025年09月12日、同日閲覧。
(*2) 読売テレビ、2025年06月08日「そこまで言って委員会NP」(伝聞による)。
これを(不完全に)引くかたちで、一部の政治家だのネット民だのが騒いだ。
『毎日新聞』ウェブ版、2025年06月26日付に「コロナワクチン「予防効果あまりない」は本当? 尾身先生を直撃した」と題して検証記事がでた。重要な指摘をふくむから、これを(あえて全文)転記する。附された肖像写真ははぶく。
とくに読売テレビ放送番組について「当該テレビ番組は生放送ではなく時間枠に収まるよう編集されていて」発言のうちカットされた部分があり、そのため趣旨が伝わらなかったことろがあるという。ここでも報道がゆがんでいるのである。
〔以下、引用〕
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会で会長を務め、最も頻繁にニュースに登場した新型コロナの有識者でもある尾身茂さん(76)。民放のテレビ番組に出演した際の、コロナワクチンについての発言が波紋を呼んでいる。
「感染を防ぐ効果はあまりない」「若い人は感染しても重症化しない。本人たちが(接種を)やりたいならどうぞと、我々は何度も言っている」
尾身さんが本当にこんなことを言ったのだろうか。真意が知りたいと思い、尾身さんに取材を申し込んだところ「コロナ対策に深く関わった者として、共通理解を得られるようにするのが務めだと思っている」と応じてくれた。
・「うそつき」「後出しジャンケン」
まずは6月8日の読売テレビ「そこまで言って委員会NP」での発言を振り返ってみたい。
<ジャーナリストの須田慎一郎氏 本当にこのワクチン、特にmRNAタイプのワクチンを信用して、信頼していいのか、ぜひ伺いたいんですけども。>
尾身さんは「ワクチンの副反応は我々の分科会ではなく、厚生労働省にあったワクチン分科会でやっていた」と前置きした上で、こう答えた。
<尾身さん 私見を申し上げると、有効だったかどうかという話を結論から言うと、感染防止効果、感染を防ぐ効果は残念ながらあまりないワクチンです。>
尾身さんは「高齢者における重症化予防効果は間違いなくある」と続けたが、交流サイト(SNS)ではこの発言を切り取った動画などが拡散し「うそつき」「手のひら返しだ」と批判の声が上がった。
さらに、若者へのワクチン接種についても説明した。
<医師の森田豊さん 現時点で、若い人たちに対してワクチンを打つかどうかに関して、尾身先生のいわゆる私見を述べてもらいたい。>
<尾身さん それはもう私は、私見だけじゃなくてこれは分科会の会長として公に何度も言っています。途中から、これは若い人は感染しても重症化しないし、比較的副反応が強いから、これについては、本人たちがやりたいんならどうぞ、と。>
これに対しSNSでは「聞いたことがない」「話が違う」「後出しジャンケンだ」と批判が湧き起こった。
こうしたやりとりについて、尾身さんを直撃した。
・「当初は期待していた」がカットされた
――まず、なぜこの番組に出演しようと思ったのでしょうか。
◆当該番組から、コロナ対策が有効だったか、ワクチンの効果がどれほどだったのかなど、コロナを総括するということで出演を依頼されました。
こうした問いに対する答えはそれぞれの立場や価値観によってさまざまで、それ自体は健全だと思っています。
ですが対話がなされず、共通理解がなされていないと感じたたため、これまでに得られた知見や客観的事実を共有した上で話し合えば、人々の間である程度の共通理解が得られ、次のパンデミックの備えにつながるのではと考えました。
そのためには、コロナ対策に深く関わりさまざまな知見・データなどを知り得た立場にあった者として、少しでも役立てればとの思いで出演要請を受けました。
――「コロナ禍では正反対のことを言っていた」という批判をどのように受け止めましたか。
◆それぞれの立場や価値観が違うので、同じ情報でも受け止め方が違うこともあり得ます。危機が長く続いた時のコミュニケーションの難しさを感じています。
――改めて、新型コロナワクチンの効果についてお聞かせください。
◆ワクチンの効果については、分かりやすいようにある意味対照的だった「重症化予防効果」と「感染予防効果」を番組でも分けて話しました。
重症化予防効果はかなり高いことが分かっていました。
例えば、オミクロン株対応ワクチンのエビデンスとして、60歳以上の方については接種者は、未接種者より入院を防ぐ効果(入院予防効果)が44・7%高かったというのが国内の報告です。
海外報告においても60歳以上および18歳以上の方について、それぞれ70.7%、62%の入院予防効果があるともされています。
一方感染予防効果については、2021年当初はワクチン接種をするとほとんどの人が感染を免れることが期待されていました。
しかし21年9月以降、国の審議会などの評価として重症化予防効果は高いが、感染予防効果は一定期間認められるものの時間とともに減弱すること、またワクチン接種者でもコロナに感染することがあること、重症化は防げても他の人への感染が一定程度起こること、などが指摘されました。
残念ながら、当初期待していたほどの効果はなかったという趣旨の私の発言は、今言ったような科学的知見を基にしたものです。
なお、当該テレビ番組は生放送ではなく時間枠に収まるよう編集されていて、収録時に発言した「当初は期待していた」という部分は放映されませんでした。
当然ですが、ワクチンの効果に限界があったもののゼロというわけではなく、一定程度の効果が存在したことは確認されていて、これを受けてワクチン接種が広範に実施されました。
・若者「接種を促していた時期もある」
――若者の任意接種について、番組パネリストや一部視聴者との認識にズレが生じたのはなぜだと考えますか。
◆ワクチン接種の対象者や、努力義務か個人の判断か、つまり公的関与(接種対象者の努力義務や自治体ごとの接種勧奨)をどの範囲で適用するか、についても議論されてきましたが、予防接種の実態は、積み上がった科学的知見を反映して適宜見直しが行われました。
具体的には、ワクチン接種が開始された21年2月ごろには若年層でも重症化・死亡するケースが少ないながらも発生しており、若年者を含め広く公的関与の対象となりました。
しかし、オミクロン株の流行後になると、感染予防効果の持続期間は限定的である一方、高齢者などの重症化予防効果は比較的長く維持されることが分かってきました。
このため22年春に開始した接種では、若年層を接種対象外としました。
ただし、22年秋の接種では、オミクロン株対応2価ワクチン導入により、感染予防効果の改善が期待されたので、全年齢を対象としました。
しかしその後、オミクロン株対応ワクチンの追加接種による感染予防効果の持続期間が限定的との知見もふまえ、23年春開始の接種においては若年者は接種の対象外としました。
また、23年秋に開始された接種では、若年者には接種機会を与えつつも、公的関与については65歳以上あるいは基礎疾患を有する者に限定され、若者は努力義務など公的関与の対象外になりました。
以上が、パンデミックの途中から、若年層が公的関与の対象外、いわゆる任意接種になった経緯です。このため若者に対し、接種を促すことはあっても義務だとは言わなくなりました。
――今一度世間に伝えたいことや今後の発信について、お考えはありますか。
◆一市民として(新型コロナか他の感染症かにかかわらず)パンデミックはまた発生する可能性があります。私たちは新型コロナで多くのことを学びました。次回はその教訓を生かしたいと思っています。
・厚労相「コメント差し控える」
一方、テレビ番組における尾身さんの発言について、福岡資麿厚生労働相は17日の記者会見で「尾身先生のテレビ番組出演については承知していますが、尾身先生個人の見解に基づく発言に対するコメントについては、差し控えさせていただきたい」と述べた。
その上で、ワクチンの感染予防効果については「オミクロン株流行下の知見として、重症化予防効果及び感染予防効果はそれぞれ確認されているものの、これまでも周知してきた通り、重症化予防効果は一定程度持続する一方で、感染予防効果の持続期間は限定的であるとされている」とした。
また、若者への接種については「効果の持続期間に関する知見や、高齢者等において重症化しやすいといった知見を踏まえ、審議会で議論を行い、その時点の科学的知見も踏まえ、適宜接種対象等の見直しが行われてきたものと承知している」と話した。
〔以上、引用〕
尾身さんは、個人的な見解(これを私見という)ではなく公的な立場から発言したと説明しているのに、厚生労働大臣(福岡資麿)はあたかもすべての発言が「尾身先生個人の見解に基づく発言」であったかのごとく問題をすりかえ、さらに「これまでも周知してきた通り」(まちがってはいないかもしれないが)ごちゃごちゃわかりにくい役人の作文をオウムがえして、一般大衆の耳目をごまかした。と、『毎日新聞』の記事を読むかぎり、そのように受けとれる。
コロナ・ワクチンについて「予防効果あまりない」(当該記事の見出し)という尾身さんの発言の真偽を追究して、その「個人の見解」にたいして大臣が「コメント」を「差し控え」ると言ったところまで書き、筋を通したつもりかもしれない。
『毎日新聞』の小見出し「・厚労相「コメント差し控える」」は記事をうらぎっている。厚労相の発言の一部をぬきだして貼りつけたことにより、「ワクチンの感染予防効果」と「若者への接種」について尾身さんによる公的な見解への大臣の「コメント」が無かったかのような印象をあたえる。じっさい現在の大臣は当時の尾身さんの一連の発言、および今回のTV番組出演時の説明を追認したにすぎない。「これまでも周知してきた」のは、大臣自身ではなく尾身さんであった。ならば、記者は、厚労相は尾身さんがこれまでくりかえした通りの説明を再度なぞったうえ、尾身さんのおっしゃった通りだと言った、または尾身さんの話とは無関係であるかのごとく「コメント」した、と書け。
見出しをつける「整理部」とかいう部局が、記事の本文をろくに読んでいないこと、もともとアホであることを暴露しているのではないか。厚労相の言うことが事実を曲げているならば、そのことを指摘して、それをたしなめる文を追加させるのが役割だろうに、かえって誤解を増幅する見出しをつけてドウスル。『毎日』整理部の「アホ」の過去の実績にかんしては、いづれ本欄の記事をもって顕彰する準備がある。
(小見出しは記者が自分でつけたものかもしれない。それを通したのは整理部の名誉にならない。)
(顕彰 ⇒ FMR「単数の they」[未公開] )
政治家が一般に日本語のあつかいにウトイこと(かつ、アザトイこと)はかねて知れわたっているが、ここではそういう現象であるかどうかはさておき、むしろ厚生労働省と薬屋とが(卑俗なことばでいえば)グルであったことを如実に物語っているのではあるまいか。
(更新記録: 2025年9月12日起稿、9月13日公開、9月14日増補、9月21日、10月4日修訂)

