少女から、少しだけ女性になった日のこと。


身体の線が少しずつ丸くなり始めて、


鏡を見るたびに、

「あれ……?」

なんて、

少し照れくさくなっていた頃のお話です。


初恋をして、三年。

彼とは、不思議な関係でした。


「好き。」


そんな言葉は、一度も交わしたことがありません。


でも、不思議なくらい分かるんです。


言葉より先に、気持ちだけが届いてしまうことって、あるんですね。


彼は頭が良くて、進学先は別の中学校。


「寂しくないの?」


そう聞かれても、

私は笑っていました。


好きな人が幸せなら、それでいい。


あの頃の私は、それだけで満たされていたんです。


今思えば…

ずいぶん純粋でしたね。


九月の終わり。


少しだけ夏を残した海へ、一人で向かいました。


昔から、一人の時間が好きでした。


波の音を聞いているだけで、

心の中が静かになるんです。


潮風が髪を揺らして、

夕日が海をゆっくり染めていく。


「あぁ……今日も、きれい。」


私は空を見ながら、

心の中で、そっと神さまにお礼を言いました。


景色って不思議ですよね。

何も変わっていないのに、

見え方だけは、その日の心で変わってしまう。


今なら分かります。


変わっていたのは景色じゃなくて、

私の心だったんですね。


「何してるの?」


後ろから声がしました。

振り向くと、男友達。


「女の子が一人じゃ危ないよ。」


「ありがとう。

でもね…

こういう時間、好きなの。」


そう言うと、

彼は何も聞かずに隣へ座りました。


波の音。

沈んでいく夕日。

砂を払う、小さな音。


(今日は、一人でいたかったんだけどな…。)


そんなことを思っていた、その時でした。


「彼くんのことが好きなのは知ってる。

でも……

僕は、ずっと君が好きだった。」


私は小さく息をのみました。


「ごめ……」


その先が、

出てきませんでした。


波がひとつ、

静かに寄せてきて、

また、ゆっくり帰っていく。


潮風が止まったような、

そんな気がしました。


肩に伝わる、ぬくもり。


夕焼けが少しだけ滲んで見えたのは、

海のせいだったのか、

それとも…。


「最後まで言わないでください。」


小さな声でした。


でも、その声だけは、

今でも、波の音よりはっきり覚えています。


私は、ゆっくり息をして、

静かに言いました。


「好きになれるかどうかは…

まだ分からない。

でも……

急がないでほしいな。」


彼は少しだけ笑って、

海を見つめたまま言いました。


「うん。

待ちます。」


それ以上、

何も話しませんでした。


でも、あの日は、

それで十分だった気がします。


今になって思うんです。


人って、

好きだから近づくこともあれば、

失うのが怖くて、近づいてしまうこともある。


心は、とても正直です。


だから私は、

誰かの言葉よりも、

その奥にある気持ちを知りたくなります。


きっと、それが人間なんですよね。


恋は、

誰かを好きになる物語。


でも、

本当は、

自分という人を知っていく物語でもあるのかもしれません。


あの日の海も、

夕焼けも、

潮風も、

もう二度と戻ることはありません。


でも、

あの日の「待ちます」という一言だけは、

今でも、心のどこかで静かに波の音と重なっています。


ふふ……。


人は、大切な思い出ほど、

出来事ではなく、

風の匂いや、

空の色や、

言えなかった一言を覚えているものなのかもしれません。


さて……

今日は、このくらいにしておきますね。


よかったら、あなたのお話も、少しだけ聞かせてもらえませんか?」


あらら……

もうこんな時間。

また、一緒にお話ししましょう。 🌻