2024/06/10@川口

監督 入江悠

酷すぎる、悲しすぎる

★★★★★


星5つ、つけたくない作品。鑑賞直後は、救いようがなく何でこれを描いたのか怒りが湧いてきた。どうしようもなく悲しくて、どうしたら良かったんだと、叫びたくなる。目の前に杏がいたとしたら、なんとか助けてあげたいと思った反面、本当に自分ができるのだろうか、欺瞞でしかない。


薬物に浸かり売春を生きる糧としていた香川杏(河合優実)が警察に捕まる。取り調べをした刑事・多々羅(佐藤二朗)に背中を押され更生の人生を歩み始める。多々羅が協力する自浄グループ「サルベージ赤羽」に参加。そこにはジャーナリストの桐野(稲垣吾郎)が取材にきていて、多々羅と懇意にしていた。多々羅と桐野の見守られて、毒親との決別を契機に、介護施設で働き、夜間学校で学びなおす日々を過ごす。しかし、多々羅のスキャンダルを桐野がリークし「サルベージ赤羽」は崩壊。多々羅の支えが無くなった杏にコロナ禍が押し寄せる。職場、学校と居場所を失った杏のもとにシェルターに住む女性から男の子を預けられる。生活に困窮するかと思われたが、逆に男の子を世話することで生きる力を得た杏の前に母親が現れる。かつての世界に引き戻される杏。そして…。


2024年は河合優実元年てある。ドラマ「不適切にも程がある」で認知度が爆上がり。そして今作は間違いなく代表作となるであろう。清原果耶、蒔田彩珠と共に、世代のトップランナーに躍り出た感がある。売春や薬にどっぷり浸かった杏だけど、どこまでも純粋で、売春していたのも家族を養うため(とはいえ母親に騙されているのは間違いないが)その優しさ、儚さ、ギリギリ生きている感じがたまらなく切ない。


佐藤二朗の多々羅は善人であり、悪人である、どうしようもない人間の二面性を表現していた。期待しかない稲垣吾郎。今回は今までのどの役よりも人間臭い、実存感があった。そして毒親を演じた河井青葉、ホント酷くて糞なんてすけど、ハマり過ぎてて怖かったですね。あと、介護施設の社長が芯が強くて好感を持てた、もっと活躍してほしかった。


喉元過ぎればなんとやらで、忘れていたコロナ禍で苦しかった思い出が蘇ってきた。物語も、実話に基いた話なんだけど、どこか知らない国の話になっていたところに、自分も経験したコロナ禍が描かれて、思いもしなかったか孤独が胸に迫ってきた。杏みたいな人には、この孤独は死に値するものだと実感してしまった。コロナ禍に人生を変えられた人、人生を終わらせてしまった人。ホント恐ろしいことだ。


監督の手腕も高く評価すべきだろう。杏、多々羅、桐野の三人が揃うととても微笑ましくみられた。また、杏の生活を長回しでみせることがとても良くて、杏の生活を追体験しているような感覚に陥った。その延長上にあるラストシーン、絶望と諦めたくない気持ちと、何度も行ったり来たり感情が揺すぶられて、もう、河合優実に脱帽である。


ホント悲しい作品なんだけど、とても素晴らしい作品だと思うし、こんな女性が存在したこと忘れたくないのです。


※川口イオンシネマ、きれいでこじんまりしていて、没入感半端ないです、とっても良いです。ただ遠い…。