2026/04/22@新都心

監督 石井裕也

石井裕也の真骨頂、家族の物語

★★★★★


あんまり石井監督作品を褒めることはないですけど、今作は良い!傑作だと思う。


前半は話が進んでいるようには思えず、何を見せられているのかなあと退屈に感じる部分はあった。綾瀬はるかが中学生をもつ母親役というのも、美しすぎてかわいさも兼ね備えているだけに違和感があった。自分で育てた野菜で食堂を経営する姿も、ほんまかいなと、思わなくもない。


24年前のラブレターを出す…。という食いつきの良い話がメインの物語ではなくて、確かに物語の始まりであり根幹をなすものではあるが、それだけではない。今作は綾瀬はるかと妻夫木聡夫婦、寺田家の、家族の物語であり、それは石井裕也監督が長年描き続けてきたテーマでもある。


2000年3月、日比谷線脱線事故に伴い富久信介さんが亡くなったのは事実であり、彼がボクシングジムに通っていて、懇意にしていた川嶋勝重選手がチャンピオンになったのも事実である。これだけとっても奇跡のような話ではある。そして1通の手紙が届き富久家との間にやり取りがあったのも事実である。そこからインスパイアされた寺田家の話はフィクションなのだが、石井監督自身が母親を早くに亡くされている経験が色濃く反映されている様に感じた。何にもまして家族の絆を強く感じるストーリーに仕上がっている。


寺田良一(妻夫木聡)は酒を飲んで帰ってくるが、とても不機嫌で妻であるナズナ(綾瀬はるか)に当たりが強い。ナズナが懸命に野菜を育て食堂を切り盛りしていることが気にくわないのだろう。夫婦の倦怠期かなと思わせるには十分な演出。しかし、ナズナの行く末を想像した時、いつも通り生活したいと願うのは理解できる。日々を過ごしながら、ふと24年前に出せなかったラブレターのことを思い出す。それは電車の脱線事故で命を落とした富久信介を想い、毎日を真剣に生きてきたからに他ならない。自分の娘・舞(西川愛莉)にどうしても報告できずにいるナズナだったが、意を決して家族会議が始まる。このシーンが邦画屈指の素晴らしさ。伝えなきゃいけないと思うほどに切り出せない。聞かなきゃいけないと思うほどにその場から離れられない。そんな時間ばかりが過ぎていく。口火を切るのは良一で、ナズナは深刻に、真剣に思うほどに目を見ては話せない。辛い話になると舞も分かっている。そんな切なさがヒシヒシと伝わってくる。


主役は綾瀬はるかでよいと思うが、MVPは妻夫木聡で間違いない。ラストシークエンスでの良一の涙に心うたれる。そして菅田将暉の川嶋も、また美しい。サイコーのキャスティングで締まった物語を展開してくれた。残された者が、逝ってしまった人の想いを受けとめて紡いでいく。


人はなぜラブレターを書くのか、それは心に秘めた想いを伝えるためではないだろうが…。