2022/06/14@新都心

監督・脚本 水谷豊

西本智実のボレロ

★★★☆☆

 

今作は市民交響楽団がメインとあって演奏はしっかり聴かせてくれた。オーソドックスな映像作りは退屈になりがちではあるが、落ち着いた雰囲気で物語に没入できるとも言える。そして、画面の構図は間違いないので観ていて飽きが来ない。

 

冒頭からマエストロ西本智実の指揮で演奏を聴かせてくれたのはとても驚いたし良かった。とりあえず飛び道具的な、食いつきよくする仕掛けかと思ったが、結構話の根幹をなす役どころで更に驚く。ちゃんと宣伝をすべきだし、マエストロ西本智実を観るだけでも劇場に足を運ぶべきだ。

 

今作は檀れい初主演だが、群像劇になっている。楽団が経済的困窮のためラストコンサートを行うか否かで、なんやかんやする話なのだが、人は沢山出てくるが、キャラを深堀しないのでこれといって心に刺さるエピソードは1つもない。ましてやコメディシーンが笑ってよいのか悪いのか、釈然としないところばかりなので観させられるこちら側は困惑。良く言えば上品、つまり、滑り倒している。

 

楽団の危機に際し誰も何もできないまま、ウルトラCでラストコンサートにこぎつけるが、有名交響楽団に混じり選抜メンバーが舞台に立つ。劇的な結末ならば、楽団全員でラストコンサートをすべきところだが、マエストロ西本智実となると素人使ってコンサートを開くことはできない、という超現実路線と納得するしかあるまい。

 

町田啓太は愚痴ってばかりでシャキッとしない。成長を見せるべき役割をきっちりこなす立ち位置でありながら実際何もしていないこの男非常に勿体ない。というように檀れいも石丸幹二も、その他の登場人物も勿体ない使い方である。唯一力を出し切ったのは森マリアのみ、彼女のヴァイオリンは聴いてい心地よかった。

 

特筆したいのは檀れいと檀ふみを親子で登場させたこと。誰もが夢みる「檀」共演を実現させたのだからこの1点をとっても凄いことである。

 

つまりは脚本が悪いのであって、映画自体は嫌いになれない。不思議なことに見終わってやる気が出たのだか、考え始めると何が良かったのかさっぱり分からない。自分と水谷豊監督の相性が良いのかも知れないし、マエストロ西本智実の指揮によるボレロが聴けたことがサプライズなのかも知れない。1番感心したのは水谷豊演じる藤堂のビデオレターによる演説であり、役者としての水谷豊はやはり素晴らしいという結論なのである。