昨年、いつだったか、多分暖かい時分。
実家に戻ると、猫が一匹居ついていました。

庭にいて、私を見ると、サッと逃げていきました。

母は、「チビ」と呼んでいました。
父は、「チビ、だかミーだか」と言っていました。

昨年12月に戻った時は、予想どおり両親の寝室で寝ていました。のぞいている私を見て、パッと逃げていきましたが・・・

名前は、「チビ」に統一されていました。
以前、庭で見たときは、やせて顔の輪郭がはっきりしていたのに、すでに冬毛のたぬきみたいに、まんまるに。

異常に怖がりで、本当に気を遣います。

触れないわけではないのです。

猫なで声で、「こわくないよー」「おいでー」「かわいいねー」「チビやー、チビー」と餌を見せながら声をかけ続けて、じわりじわりとお互いの距離を縮めていって、餌を食べに来たところでほっぺや、おでこにそっと触っていると、やっと気を許しはじめます。

「この人大丈夫だ」と思うと、足にまとわりついて、顔をぐいぐいすり付けて、そのうちざらざらの舌で舐めてくれ、甘噛みなんかし始めます。

おー、やったー、仲良くなったー、と喜んだのもつかの間、次に顔を合わせた時は、また怖がってサッと逃げて行ってしまいます。

ずいぶん苦労をしてきた猫みたいです。

仲良くするのに、やたらと時間が必要なので、実家に滞在するときは、なるべく彼の生活を乱さないように心がけています。
 

両親には気を遣うことはないけど、猫にはやたら気を遣います。

どんなに気を遣っても、知らない人の気配を察知して、チビはそっといなくなってしまいます。

この寒い時期にごめんね、と思うけど、まああれだけ脂肪で身体がぷるんぷるんになってたら、あんまり寒くないよね、とも思って、廊下なんかで偶然会っても、小さい声で「チビ」と呼びかけるくらいにして、静かに動くようにしています。

こちらに慣れることのない猫も、かわいいものです。

どんな猫も好き。

街で、すれ違うような出会い方をする猫も好き。
 

一番心惹かれるのは、成熟してほっぺが横にぐっと張ったオス猫。野良で、ケンカいっぱいしてるなぁ、という風貌で目つきもわるく、道端に座っているのなんかに出会うと、にやにやしてしまいます。

どんな猫も、濃い野生を持って生きていて、日常でそれを垣間見る瞬間に出会うと、ワクワクします。

今のところ、チビにそれを見たことはないですが・・・

両親は、ここ何年か猫のいない生活をしてきました。

自分たち以外の生き物と同居しない生活は、気楽だったと思うけれど、老齢の今、チビが住みついてくれたことは、両親の精神生活にとってもいいと思います。
 

きっと、毎日楽しいと思う。

私も、実家に特別の猫がいるのが、すごくうれしい。

母には、

「あんたのせいでチビが戻ってこない」

と厳しいこと言われて困ってしまいますが、それもまたおもしろいものです。