「線香花火」 ~思い出が燃え尽きるとき~ 


愛が、燃えている。 

すべてを、焼き尽くすように。 

あなたさえも、この炎で。 








浴衣の裾が忙しくあなたを追いかける。 

人ごみのなか見失わないように。 

そっと手を伸ばした。 

触れた手は、熱くて。 

まるで、身体中が心臓にでもなったように私のなかで響くから。 

少し恥ずかしくて、そっとうつむいた。 

聞こえなくなった、笛の音、喧騒。 

ふたりだけがここにいるような気がした。 

そう。あなたがいれば良かった。 

あなたがいなければ、私もここにいなくて。 

微かに触れた唇、あなたの浴衣の袖を握りしめた。 

線香花火が輝いた夏に。 

来年の夏も、その次の夏も、ずっと。 

ふたりでいられると思っていた。 








・・・ 
そっと手を伸ばした。 

触れた手に、最後の夏を感じて。 

笛の音、喧騒のなか、あなたを引き止めた。 

「線香花火」 

最後のおねだりをして。 



ただ、あなたがいれば良かった。 

あなたがいなければ、私もここにいなくて。 

激しいキスの後、あなたの背中に傷をつけた。 

愛が、燃えている。 

すべてを、焼き尽くすように。 

あなたさえも、この炎で。 



このままずっと、抱かれて・・・ 

それでも、燃えて散る線香花火のように。 

落ちていくのなら、あなたを焼き尽くしたい。 

線香花火の向こう。息が止まるほどあなたを見つめた。 

花火の灯りに映るあなたの顔が、やけに愛しかった。 

「・・・そんなことできないわ。」 




花火の灯りに映るあなたの顔。 

まるで一枚の写真のように、私に焼き付いて。 




ふたり繋いで握った線香花火。 

「もう、逢えないんだね。」 

唇の動きに合わせたかのように。 

燃え落ちた。 

















・・・ 
浴衣の裾を、少し気にしながら。 

片膝をついて。 

火をつけた。 


線香花火の向こう。あなたが見えたような気がした。 

そっと手を伸ばした。 

思い出に触れた。 

ふたりだけがここにいるような気がした。 

・・・思い出でも良かった。 

あなたがいなければ、私もここにいなくて。 



もう一本、火を点けた。 

また一本。もう一本。 

だんだんと、あなたが見えなくなって。 

噛んだ唇。浴衣の袖が涙に濡れて。 




「あなたがいなければ、私もここにいなくて。」 









最後の線香花火。 


聞こえなくなった、笛の音、喧騒。 


思い出さえも、燃え尽きて。 


















線香花火が、輝いた夏に。 

来年の夏も、その次の夏も、ずっと。 

ふたりでいられると思っていた。 

 白鳥 海