「小児病棟」
白いベッド。白いシーツ。
ありがとう。僕がきれいな心でいられるのはこの病気のおかげなんだ。
もしも病気になってなければ。
悪い心を持っていたに違いないよ。
きっとベッドもシーツもくちゃくちゃにしてさ。
お父さんやお母さんをいつも困らせたりしてさ。
運ばれてくる食事。銀のお皿。
もしも病気になってなければ。
悪い心を持っていたに違いないよ。
きっと嫌いなものは残したりさ。
うん。歯なんか虫歯だらけさ。
明るい陽射し窓の外。花瓶の花。
もしも病気になってなければ。
悪い心を持っていたに違いないよ。
きっとどろんこになるまで遊んでさ。
花なんか足で踏んづけたりさ。
何種類もの薬。点滴の針。
もしも病気になってなければ。
静かすぎる廊下。早い消灯時間。長い夜。
もしも病気になってなければ。
となりの空いたベッド。揺れるカーテン。
もしも病気になってなければ。
友達はもう少し。一緒に居られただろう。
白いベッド、白いシーツ。
こわいんだ。
悪い心が僕を覆い尽くす。
ねぇ、もしも病気になってなければ。
こんなに悲しくなかったの?
こんなに痛くなかったの?
友達はみんないなくならなかったの?
僕は今日も生きていられるの?
ねぇ。
こわいんだ・・・
白いベッド。白いシーツ。
ありがとう。僕がきれいな心でいられるのはこの病気のおかげなんだ。
もしも病気になってなければ。
きっと悪い心を持っていたに違いないよ。
だから泣かないで。
こんど生まれてくるときも。
少し壊れていたほうがいいさ。
でもさ。
痛いのはちょっといやかなぁ。
ありがとう。僕がきれいな心でいられるのはお父さんとお母さんのおかげなんだ。
また今度もお父さんとお母さんの子供になるから。
だから泣かないで。
・・ねぇ。
空いたベッド。揺れるカーテン。
「今までありがとう。」
白鳥 海