「桜の花びらに」


お互いの傷に触れないように。

ほんの少し、距離をあけて。

触れたい気持ちをおさえて、瞳を見つめあった。


優しい陽射し、淡い色・・・遅すぎた出会い。


桜の花びらが手に触れた。

そう思った。

見下ろした僕の右手に。

優しく手を重ねたあなたがいた。




桜の花びらはふたりを隠すように舞い続けた。













木漏れ日の歩道で。

ほんの少し距離をあけて。

僕たちは歩いた。

すれ違う恋人たちが繋いだ手のリング、写真、アドレス・・・


何も持てないけれど。

あなたがいるだけで。

あなたがいれば。

それで良かった。



木漏れ日の中。

あなたが優しく手を重ねた。

来年の春もずっと。

ずっと。

こうしていられると思っていた。















お互いの傷に触れないように。

ほんの少し、距離をあけて。

触れたい気持ちをおさえて、瞳を見つめあった。


優しい陽射し、淡い色・・・遅すぎた出会い。


「こんなに好きなのに・・・」





























あれから何度桜は舞ったのでしょう。









でも。




あなたの思い出になる物など、何もなくて。

思い出せるのは、遠い心の記憶。

こんなに好きなのに、あなたが遠くなるように。

あなたの頬笑みがだんだんとぼやけた。

その瞳は、僕を見つめていてくれているのかさえわからないようで。

心の記憶。それだけがあなたを飾る思い出だったのに。

こんなに好きなのに。

「こんなに好きなのに。・・・あなたが遠くなるように。」

白鳥 海




















切なくて見上げた空。桜の花びらが舞い落ちた。

淡い色は。僕の気持ちと重なるから。

少し、胸がしめつけられて・・・