「口笛を吹け」 


何も出来なかった無力さに。 

ただひたすら涙が流れる。 

夕陽が沁みる丘の上。 

でもどんなに悲しくても。口笛が吹ける大人であれ。 


 

 

 





正義のヒーローは。 

助けに来てくれなかった。 

そんなこと。 

少年の時には思いもしなかった。 



 

 



いじめ。虐待。 

地震。津波。 

原発。核。 

犯罪。テロ。 

貧困。 



毎日が苦しくて。生きていくのは痛みを感じることと思った。 

いや。もはや痛みすら感じず。生きているのか死んでいるのかさえわからなかった。 

「もういいんだ。」 


そう言って、君は屋上から飛び立った。 


 

 

 

 




役所の帰り道。 

手を伸ばしたけれど。 

それは受け入れられなかった。 


貧困は極まり。所持金はわずかとなり。 

冷蔵庫も洗濯機もない生活に母は。 

「申し訳ない・・・」 

泣きながら子供の頭をさすり続けた。 









未だ街は壊滅状態で。 



しわくちゃな手でがれきを懸命に拾い上げた。 

「お前の未来にはきっと良くなるはずだ。」 

その老人は父と母を亡くした孫を連れて明日を歩いた。 


今日も明日も。絶対に死ぬわけにはいかない。 

「自分が死んだらこの子はひとりぼっちになってしまうから・・・」 

そう、しわくちゃな顔でつぶやいた。 

 

 


同じ日本人だけれど。 

集めたがれきは受け入れを拒否された。 


あれからだいぶ時間はたったけれど。 

未だ街は壊滅状態で。 


復興の国家予算は余っているというのに。 

絆は喉元を過ぎれば跡形もなく消えていた。 



志を忘れた政治家は選挙演説で叫ぶ。 

「被災者のために・・・」 

でも消費税は倍になり、天下るための電気料金も上がった。 


「それでも今日も明日も。絶対に死ぬわけにはいかない。」 


老人はしわくちゃな手で顔を押さえながらそう言った。 



 

 





・・・ 

「正義のヒーローは助けに来てくれなかった。」

 

 

 

 



小さくなったおじいさんの前で少年は言った。 




 

 

 







・・・ 

その少年は正義のヒーローが好きだった。 

「そのヒーローはね、いつも口笛を吹くんだ。」 

そう言って僕に教えてくれていた。 

 


君の絶望が希望に変わるように。 

どれだけ努力したらヒーローになれるだろう。 

今はまだ丘の上に駆け上がることしかできないけれど。 

きっと助けに行く。 
 

 


「下手くそな口笛は。きっと迷惑だろうけれど。」 

 白鳥 海 









「合理化」という合図のもと。 

人は何かを失っていった。 

企業は損得だけを考え癒着を繰り返す。 

製造業派遣解禁。郵政民営化・・・ 

正社員はいらなくなった。 
 




憧れは公務員で。 

市民のために奉仕する志は「安定」にすり替わり。 

全ての判断基準は損得となった。 
 


日本のために命をかけた藩士たちは嘆いた。 

こんな政治のために命を落としたと。 

志は無く、選挙に受かることだけが全てで。 

 


聖職者は子供を見ずに。 

どこを見るのか。 

誰もがそうだと思う事を平気で知らないふりをする。 

そんな人間が何を教育するというのか。 

守りたいのは子供ではなく自分となっていた。 
 

 





「悪人は一日も休まない。」



かつて、ボブ・マーリーがそう言っていた。 

ならば。 

 

 

 

 

 

 


正義は一日も休んだりしてはいけない。 

 

 

 

 



愛することを止めてはいけない。 
 

 

 

 

 

 



大切なものを失ってはならない。