「丘の上の愛」
逢いに行こう。丘の上のあなたに。
長い階段を昇って。
丘の上に住むあなたへ。
その丘は、岬が見えて。
遠い向こうに、外国船が小さくたたずんでいたり。
そんな風景を、あなたが来るまで、見ていよう。
それでも、あなたのことしか考えられなくて。
どんな風景も、ただあなたを飾るものでしかなくて。
その丘の夕日は、とても大きくて。
僕を真赤に照らしてしまう。
あなたに逢うだけで、照れてしまう僕を。
いっそう、真赤にしてしまう。
・・・あなたを想うだけで、幸せだった。
長い階段を、息を切らして駆け上がる。
一秒でも早く、あなたに逢いたくて。
たどり着いた丘の上。
あなたの髪の香りがした。
『ずっと、このまま、いられたなら。』
そっと、あなたの指をつかまえて。
・・・そう、言いたかったのに。
遠く、外国船の汽笛に打ち消されて。
そんな、丘の上の愛は。
僕の優しい居場所だけれど。
それは、僕だけの居場所ではなくて。
あなたが待っている人は、
息を切らして駆け上がって来る、僕なんかではなくて。
遠い海の向こう、外国船の遥か向こう。
『・・・今頃、気付くなんて。』
岬を見つめる、あなたの背中に。
声にならなくて、下を向いた。
その丘の夕日は、僕を、真赤に染めた。
・・・
『隠し通せるかな・・・』
『こんなに、愛していたこと・・・』
長い階段の途中、つぶやいた。
『さよならを言えるのかな・・・』
「それでも、愛している・・・」
手すりにもたれたまま、動けなくて。
・・・
あれから、丘に上ることはなかったけれど。
その丘は、今でも、僕の優しい居場所で。
その丘への通り道。
何年目かの夕日が、僕にささやく。
『マタ、アイタイネ。』
「・・・そうだね。きっと、また、逢えるね。」
「あの、丘の上で。」
僕は、夕日に照らされた、階段を昇りはじめた。
白鳥 海
「風のいたずらかな?」
あなたの髪の香りがした・・・・
背中から、あなたに優しく、包まれた。
・・・丘の上で。