「月に書いたラブレター」 


季節が変わるたびに様々な思い出が増えて・・・ 

でもそのほとんどが・・・切なくて。 

いつの時代にか、あの海で逢えたらいいですね。 

たくさんの詩を書いて、たくさんの本を読んで。

たくさんの言葉を貴女に伝えたかった・・・ 








貴女へ宛てた愛の言葉はこの星には存在しなかった。 

そう、人目を避けるように貴女に届けたはずのラブレターは。

貴女さえも避けるように。

宛てた住所がまるでこの星にはなかったように月へと届けられていました。 


ただ書かれていることは愛しているということ。 

ただそれだけをこの星の唯一、貴女だけに届けたかった。 


月に書いたラブレターは遠すぎたようです。

確かにそこには存在しているのに。

真昼の月は目立たず、夜でさえも月の満ち欠けに邪魔をされて。 





この川辺は永遠に続くものと思っていた。 

川面に浮かぶ月は繊細で少しの風でもその姿を変えてしまい、

たよりなく浮かんでいる。

・・手を伸ばせば届きそうで。


まるで子供に帰ったように無邪気に恋をすくおうとするけれど、

両手から零れ落ちて。

決してすくうことができない事を知らない少年は、

ただ、ただ、繰り返して。泣き疲れて。 


時間を忘れることの出来ない貴女は、

そっと手のつなげるこの川辺が好きだった。

月灯りしかないこの川辺が。

僕は月灯りの影を壊さぬようにそっと手を握り返して。 



桜の季節が嫌いと言う貴女。

そう、夜でさえもこの川辺に灯りを照らしてしまう桜が・・・ 
ずっと一緒に歩いていけたなら。

そう僕らはほんの少し歩きすぎたみたい。 



小川は僕たちに不似合いな大きな川となり、

そうして海にたどりついた。

広大な海に戸惑う貴女、隠れる場所を見失った貴女は。

はっとするほど繊細な指で手を振った。 













・・・・

4月になるとこの川辺に来て、少年のページをめくってしまう。

この川辺が永遠に続くものと誤解していたあの頃。

ほんの少し出会うのが遅かったあの頃。 


星の光が何千年、何万年もかけて地球に届くように、

幾年月をかければ貴女に巡り逢うことが出来るのだろうか。

それとも、人類が月で暮らすことが出来る時代が訪れるのだろうか。


届くはずのないラブレターは届くのだろうか。 







~Love Letter~ 


もし、4月の雨があなたの涙なら雨を見上げすべてを受け止めたいと思う。 

包み込む風になり、あなたを守りたい。頬をかすめて通り過ぎていきたい。

おだやかな時には、木漏れ日となってあなたを照らしたい。

怠惰な日には、落ち葉となって、彩りをそえよう。

道に迷ったときには、月灯りになりたいと思う。 


声も聞くことも出来ない、触れることもできないけれど。

あなたの髪の香りをたよりに、 

何千年、何万年かけて星の光が届くように、

何千年、何万年かけてあなたに逢いに行こう。 

あのときの瞳が忘れられないから、とっても大切な事だから。 

















・・・
帰り道、錆びたバス停でひとり。

立っていることもままならず泣きじゃくる僕に。


桜舞う。

 白鳥 海