あいつはシャブで刑務所に一回入ったけど大してシャブをやってたわけやない。

シャブ極道に嵌められて教え込まれて一回目パクられて、その後一年後にまたパクられて刑務所に行かせてしまった。

けどそれであいつのシャブ歴は終わってる。

田舎のお母さんとこに帰ったしな。

オレはずっとシャブ中のまんまやったわけよ。

終わりやねんそれで。

とっくに刑務所から出てきてたあいつに

前にも書いたように引越しする時、もしかしたら会いにくるんやないかと思った。実家にオレが預かったままになってたあいつの子どもからのアルバムと手紙を送ったらその後、すぐに電話がかかってきて再会した。


「むーの子どもを産みたい」

再会した時に開口一番言ってきた。

今でも思い出したら、こいつの人生逸らしてしまったって後悔するわ。

ええお母さんになりそうな女の子やったからな。

でもオレは間違えてない。

シャブ中の男がシャブも止める気一切なかったわけよ。

ろくな結果になるわけない。

シャブ中のキチガイでもそれぐらいはわかるわ。

責任とか持ちたくない、それだけやったんかもやけどな。


なんであいつのこと今でも忘れずに思うぐらい好きやったんか分からん時あるねん。

すぐに人を信じるあいつの性格が大嫌いやった。

性悪説と性善説言うの?

丸切り反対やったからな。

他人なんか信じて夜の世界で生き抜けるわけないやろってずっと思って生きてた。

そんなヌルい考えで夜の仕事して金稼いでいけるわけない。

隙あったら金抜くことしか考えてない奴に右も左も前も後ろも囲まれてて当たり前なんよ。

仕事でさえそんな感じやのに、シャブやらなんやら食うてる奴らなんかもっと酷いもんやしな。


女がパクられる前の話するわ。

こいつがシャブで呆け過ぎてオレと喧嘩ばっかりになって一時期離れた。ある時やっぱり気になって様子が知りたくなった。

あいつに電話してどこにいるか聞き出した。

この頃、k会のシャブ極道のおっさんがこいつをどないかしようとしてた。

雄琴のソープに入れようとしてたんよ。

ヒモになりたかったんちゃうか、そのおっさん?

ああこのヤクザ、ヤクザの癖にシャブで身滅ぼしかけてるやんけ、オモロいなぁて思ったわ。

ええ年したヤクザがヒモ志願は情け無いなぁと。


飛田新地の一角にあるマンスリーマンションをあいつに当てがってた。

部屋にリコを連れて行った。冬の寒い頃やったの覚えてる。

部屋で数日過ごした。

あいつはもう別人みたいになってた。

一時的なシャブマニアみたいになってた。

覚えたてはそうなる奴多いやろ?

目が吊り上がったままで中々注射も上手くいかん、何時間も悪戦苦闘してたな。

情緒も不安定になってて泣き出すこともあった、

けど、オレは慰めてやることもあんまりしなかったと思う。

好きやったで、そやけどへんに何でもかんでも優しくする、それは違うような気がしてたんちゃうかな?


今思い返したら、オレもそれまでにかなりの数のシャブ食ってる女たちと過ごしてきてたわけよ。

それなりに扱いは慣れてた。

死ぬほど好きな女が目の前でシャブを打とうとしてあちこちに針をおっ立てても冷静やった。

怒る必要も悲しむ暇もない。

シャブを打ってるという事実は、まともな人生送ってる人から見たらかなりの破滅やとは思うけど、一回やって何回かやってたらもう大して変わらんのとちゃうか?


数日間一緒にいた。

数日、ほとんど喋りもせえへんかったな。

あいつはオレのいる場でトイレでシャブ食うこと嫌やったんやろな。


向こうはシャブに取り憑かれてる、正常を失ってる。

こっちもシャブを食ってるけど、それは10年そこら日常になってるから普通の精神状態であいつを観察してる。

(何か言っても無駄やな今は)

オレは冷静なもんよ。


2〜3日した時に少し寝れた後、

あいつが唐突に喋り出した。

シャブヤクザにソープで働くように勧められてること、でもオレにそばにいてくれ、

私をコントロールしてくれと、、

もちろん、半分以上ボケて言ってるのは分かってる。

「そのヤクザのおっさんとだけは行かせへんよ」




ただ、この今、シャブで狂い過ぎてるこいつを上手くコントロールできるわけがない。

好きなんやで?でもな、やって行けるわけがない。

適当な相槌打ってたらまた女はシャブを打ち出した。

カリカリしだして、オレをなじって責め出した。

聞き流した。

ギャースカ喚いてるからリコ連れて散歩行ってくるゆーて部屋を出た。

マンションから外に出てすぐ前にある阪神高速堺線の高架下にある公園のベンチに座ってリコを抱き上げた。

真冬でめちゃくちゃ寒くてリコも寒そうにしてた。

ダウンジャケットの中にチワワのリコを入れてお互いが暖かくなれるようにして服の中でこっちを見てるリコの首のあたりに、ふうぅふぅーって温かい息を吹きつけた。

その公園は飛田地区の自治会かなんかの事務所があってそのプレハブから出てきたおじさんが申し訳なさそうにオレに

「ごめんね、お兄ちゃん、ここの公園は犬入れたらあかんのよ、ほんとごめんね」

言われて

「すいません、知らなくて」

謝って公園を出た。

感情は死んでたし、シャブで冷えた身体に真冬の外気温でさらに全身を冷え切らせた。

青白い顔でリコとてくてく歩いてもう少し時間を潰してたらあいつからメールが来た。

マンスリーマンションの暗証番号を知らせて来てた。

部屋に戻ってチャイムを鳴らしたけど応答がなくて暗証番号を入れて部屋に入ったら暖房をかけたままあいつはいなかった。

6畳もないような狭い部屋の備え付けであろう小さなテーブルに「お弁当を食べてね」メモ

弁当と買ってきたばかりの犬のフリースの服が置いてあった。

すぐにリコに着せたらリコは嬉しそうにして身体をプルプルさせて笑った。


弁当を食べながらなんとなく今はまだ大丈夫だと思ってオレは部屋に書き置きを残して部屋を出た。

あいつに伝えてなかった最近引越した浪速区日本橋東のマンションの住所。

たしかこの時、部屋番号を書くのを忘れてて、

約2ヶ月のお互いの音信不通後、

あいつがオレのマンションにこっそりとリコのご飯とかをドア前に置きに来た時、部屋番号をたまたまマンションに帰ってきたオレの知り合いに聞くことになる。
















あとがき

読んでくれてる方々へ

時系列は行ったり来たりになってます。

書く気になったその時に思い出したことをそのまま文章にしてます。

読んでくれて、いつもありがとう。