夜中に目が覚めた。

足元の布団の上にリコの重さがある。

見下ろすと丸くなって猫みたいに寝てる。

「リコ」

呼んだら身体をほとんど動かさないで薄目を開けてこちらを見た。

携帯を見たら朝の4時ぐらい。

トイレに行って出てきたらリコは水を飲んでからこっちを振り向いて見た。

「いこっか?」

好きな言葉を聞いてリコが慌てて全身をプルプルさせた。

首にリードを繋いだら引きずって玄関ドアに向けて走り出した。

マンションの自動ドアが開いてリコが先に出た。

右に行くの?左にいくの?

リコが振り返ってオレのことをまた見る。

お腹が空いてるから駅の方に行こう。

駅前にあるコンビニか牛丼屋に行こう。

一緒に歩く。

夏の朝早くの空気は澄んでて涼しくて気持ちいい。

時折駆けるとリコは嬉しそうにリードを引っ張って走り出す。

リコはこっちの道に行くとどこを曲がるのかだいたい分かってる。

阿倍野警察署を西成区に下る丸山通りのマンションに住んでる。それを西向きに。

駅前のアーケードをあるいて

旧26号線の角の吉野家の前にリコを繋いだ。

注文をして外向きに座るとリコがじっとこっちを見てる。

さっと朝飯をかきこんで外に出た。

なんとなく、遠回りの方向を歩いた。

旧26を南向きに歩いて西成区役所、松虫通りを左折。

白みかけた夜明けの朝方。

区役所前の植え込みで休憩した。

さっき買った缶コーヒーを飲みながらタバコを吸った。

リコは歩いてる人や他の散歩の犬を見渡してはしきりに、耳と目と身体を反応させてる。

遠くに大きな犬が歩いてるのを見つけて首を傾げてる。

知ってる犬かもとか思ってるんだろうけど、知らない人と知らない犬だと確認したのか少しだけ興味なさげに吠えて、こっちを振り向いた。

タバコの煙をリコにかからないように後ろに吐いた。

旧26号線を歩いてたら歩道橋があった。

小さな歩道橋。

数年前のことを思い出した。

あいつと日本橋西で暮らしてた頃、あいつが寝てる間に朝方4時頃にリコを連れて部屋を抜け出した。

ポケットに品物。

骨の髄までポン中。

家でやったらあいつが気配を感じてなじってくる。

コンビニでエビアンを買って彷徨った。

遠く西成の旧26沿いまで歩いた。

歩道橋に上がった。座り込んだ。

白みかけた朝方。

道具を取り出して品物を詰めた。

エビアンから水を吸い上げた。

Tシャツの袖を引っ張って脇の辺りで圧迫した。

血管が浮き出た。

道路沿いには6〜7階しかないような西成の薄汚れた小さなマンションが立ち並んでる。

視線など感じない。

映画シャブ極道のワンシーンを思い出したらにやけてしまった。

打ち終わった。

ため息をついた。

(無茶苦茶やな)

と少し思ったけど特に感情もない。

シャ#はいつもオレの感情を殺してきた、10年も。いやもっとか。

あいつと暮らし始めたのはもう6年も前のことで、ここでシャ#を打ったのもそれだけ昔のこと。

あいつはパクられて今は刑務所。

西成で暮らしてたころ、ドン底だった。

抜け出す気力がない。

そもそもドン底こそが居心地良かった。

何もかもない。

何もあるわけない。

西成区みたいな人口密度高い街の歩道橋でシャブ打つ。そんな人間にまともなことができるわけがない。

落ちぶれてた。

そんな状態のままなのに、いつか彼女が帰ってくると思ってた待ってた。

いや、待ってたというよりどこにも行けずにいただけ。