「リコのイメージフラワーはシロツメ草」

何度か言ってたね。

あいつは本当に可愛い女の子だった。

なんていうのかな?ほんと女の子そのものって感じ。

「今日美容室行ってね、風の谷のナウシカみたいにして下さいって言ったの」

そんなこと言う女と付き合ったことなかったよ。

出会ってすぐはオレはセフレみたいな扱いをしてたわけ。

最低でしょ?


毎日くらい会って、話して話して、いっぱい話してるうちにだんだんと好きになっていってたんだよ。

シャブさえ食ってなかったら良かったと思う。

でもね、今となってはあいつが言ってくれたようにオレにとっても青春だった。

なんかそう、青春だった。

もう大昔のことなのに、今でもずっと思ってる。

あんなに愛してくれた女はいなかったかも知れない。

あいつはよくね、四葉のクローバーを持って帰って来た。

幸運のサインになるような物を欲しがってた。

色んなことに裏切られつづけてきたはずなのに、巡ってくる幸運を信じてたのだと思う。


ある日2人でリコを連れて公園に行って、四つ葉のクローバーを探した。

全然見つからなかった。

見つけることが出来なかった。


「一つ見つけるとね、その辺りには必ず他にも沢山、四つ葉が見つかるんだよ」

そう言ってくれたけど、一つも見つけられなくて、、

「もう行こう、また今度探そうよ、ここには無いのかも知れない」

あいつは言ったけど、今見つけないといけない気がして探し続けた。

次に一緒に探すことはなかった。




シロツメ草は小さなクローバー、

公園とかでよく見かける花が咲く。

リコは実家の裏庭に埋葬したんだけど、そこにもシロツメ草が生えてる。

シロツメ草は食用にもなるらしいとwikiに書いてある。


実家に寄ると今でもリコのいる場所に手を合わせてる。クローバーをいまだに一つ二つ千切って口に入れたくなる。

土に還ったリコの身体の一部がクローバーの葉に含まれてるような気がして食べる。

愛しくて愛しくてかけがえのない犬だった。


西成区聖天下のマンションにいた4〜5年間、

あいつはそこから出かけた時に2度捕まった。

その後、あいつが刑務所に行ってる間、オレは落ちる所まで落ちてドン底だった。

自分を憎んだ。

ずっと人が嫌いだった。

シャブの食い過ぎでどうにかなってた。

リコとあいつがいなかったら、どっかでくたばってたと思う。

オレみたいなクソは死んでしまえばいいと思ったけど、死ぬ気なんかなかった。

まだまだシャブをやりたがってる欲求に支配されてた。


とにかく思い出したら切なくなる時もあるけど、

実際のところ、オレは楽天家で二重人格なとこがあって、だから精神的にはかなりタフだったと思う。

シャブの食い過ぎで変な思考でもそれを客観的に見てたし自覚できてた。


どんなにシャブを食いまくって女と遊んでてもリコのところにすぐに帰ってた。

心の拠り所であり、遊び相手の女の子への逃げ口上だった。リコの写真をいつも持ち歩いてて見せたら女の子みんなに笑われたけど、優しいねって言ってくれた。




リコがまだ若かった頃に長く疎遠になっていた実家に寄ったことがある。

実家は二世帯住宅になっていて母親のところにいたら、開いたドアをいつの間にか出て行ってたリコが兄貴の家の方を探検しに行ったみたいだった。

母親のところの座敷の縁側でタバコを吸ってたら庭越しに向こう側のリビングのガラス戸越しにリコが走り回ってるのが見えた。

まだ4〜5才で小さな姪っ子が満面の笑顔でハンカチを振り回してリコとリビングのテーブルの周りをぐるぐる走って追いかけっこしてた。

姪っ子は白い服を着てて、白いリコと二人、

天使そのものだった。