大国町駅からほど近くのマンションの一室で死後約1週間で見つかったらしい。

Sさんは大ベテランのヘヴィユーザーだから気持ち良くなれる量でたまたま心臓や呼吸が止まった。

ただそれだけのこと。

ヘロイ#をやっていたら時々起きること。

「1人でやってはいけない麻薬」

と言われる所以。

近くに誰かいて人工呼吸、心臓マッサージ等の蘇生をすればおそらく還ってきてた、死ななかったであろうこと。


オレにこのことを伝えてきたdd氏は、

「ジャンキーとして幸せな死に方、最高の快楽の中で死んだ、やろ?」

安らかに死んだ、だがもし死んでも意思があるのならもっとまだまだやりたかったはずだと思う。


....


2005年某日、マンションの一室、オレの部屋。

Sさんからの電話が鳴った。

「友達連れて部屋に行っていい?」


少ししてSさんが友達を連れてきた。

ロン毛のサーファー感満載の友達。

Sさんも昔はバリバリのサーファーだったらしい。

海外でヘロイン を覚えた。

そういう人が大半をしめてた。


.......


ソファーから降りてラグの上に座り込む。

テーブルにスプーン。

スプーンは折り曲げて角度をつけてある。

置いた時に座りを良くするため。

真っ白いパウダーを銀色の耳かきで掬ってスプーンに落とす、ほんの少し。

注射器で紙コップに入れた水道水を吸い上げてから、スプーンに水をゆっくりと落とす。

スプーンを持ち上げてライターでスプーンの下を炙る。

ほどなく沸騰する。

小さなコットンを指で丸めて液体の上に落とす。

フワッとコットンは液体を吸い込み膨らむ。

シリンジの先の針先でコットンを押し付けて吸い上げる。

ほんの少し褐色の透明な液体、静脈へ。

逆血を確認してゆっくりと押し棒を押す。

とてもゆっくりと。

少しずつ表情が緩んできてるのがわかる。

やがてまどろむ。

まどろみはやがて深くなりだす。

身体の力が抜け、上半身が舟のオールを漕ぐように前後上下にコックリとしだす。

右手には注射器を持ったままで左腕に刺してた注射器が抜けたり刺さったりを繰り返す。

腕には左腕に6本、右腕に4本、注射針が折れて腕の中で肉を巻いて埋まったままだ。


何度も腕に注射針を刺しているのを見かねて、そっと右手から注射器を取った。

針が完全に横を向いて折れ曲がってる。

完全に意識を失ってる。

もう一人の人が打ち終わってこっちにきたので聞いた。

「息してますかね?」

「気持ち良さそうやなぁ」


暇つぶしにオレはシャ#を打った。

当時オレが仲良くしてた別の先輩、元ヘロイン常習者のKさんに何度も言われてた

「Sは気軽に誘って来るやろうけど、プチだけは絶対やめとけよ、だけやったら全然大丈夫や、プチいったら負けやぞ、常に追われて生きて、持ってる奴の言いなりにされる」


プティ=どこかの国の言葉、ヘロインの原産地の言葉だとか聞いた覚えがある、真っ白を意味するらしい。


「なあなあ、タイに行く気ない?旅費は全部出す、

一回行ったら金になる」

次から次、周りの奴らがスマッグリングにタイに渡航をした。

タイに何度も渡航歴があると疑いをかけられやすい。

タイに渡航歴のなかったオレに目をつけてSさんは言った。


でもリスクが高すぎる。

「捕まった奴はおれへんよ、向こうに行けばミッチーがいてる、全部セッティングしてくれる」

当時、落ちぶれてたオレを何度も誘ってきた。


*通常のコーヒースプーン


このように曲げると座りがよくなり、スプーンの皿は平衡に置ける。