毎日ずっとシャブを打ってた。
刑務所に行ったあいつのことはほったらかしてた。
毎日ずっとシャブを打ってボケてたら何年もの月日が流れてた。
ちょっと金が入ってきて引っ越すことにした。
あいつがまた来るかもと思ってた。
ここに帰ってくると。
黄色いハンカチって古い映画を観たけど、そんなストーリーとは程遠い。
ボケまくって4年。
2〜3年で出てきてるはずだと思った。
ボケながらも、ここに帰って来たら困ると思って手紙を実家に出した。
電話がかかってきた。
オレはまだ何も変わってなかった。
あいつとまた暮らすなら薬をやめてなければならない。
でも当時は何にも出来ない人間だった。
すぐに会いに来てくれた。
春だった。
桜が咲いてた。
リコを連れて公園に行った。
あいつは弁当まで作ってくれてた。
出会った頃のようにまたあいつに振る舞ったオレは本当にくだらない人間だった。
見れば分かるはずのオレのことをまた、盲目的にあいつは好きだと思ってしまった。
何年もの自己嫌悪はオレになんの学習もさせなかった。
あいつがいない時はまた欲望の限りを続けた。同じ破滅に進むだけだった。
いや、既に破滅していた。
金を走らせたらブレーキなんか効かない、そんな薬をやってた。
あいつが悪夢を見た。
「夢を見てしまったの、ムーは私が溺れてるのに助けてくれなかった、なぜなの?」
泣きながら問い詰めてきた。
オレがそんな夢を見させた。
何度もその夢を見ると言った。
夢の話でオレを責め立てた。
薬をやったまま好きな女といれるのか考えた。
じゃあ他の女ならどうだった?
あいつが刑務所にいる間に出会った女の子のことを考えた。
好きだと言ってくれた女の子もいた。
シャブをしない女の子もいた。
その子はシャブをなんとも気にしないでいた。
どこからどうでなにがどうしてどうすればいいかなんて分からなかった。
いや、何をしてももう仕方なかったんだと思う。
あいつともう連絡取れないように電話番号を消した。
それでもたまに電話をかけてきてくれた。
半年後ぐらい、一度大阪に来たあいつに会った。
久しぶりに会うあいつは昔、出会った頃、オレが好きになった可愛い笑顔だった。
膝の上にリコを抱いたあいつを乗せて夜のミナミを少しドライブした。
堺筋日本橋のワシントンホテルに泊まってるって言った。
「部屋にくる?」
「今日は帰る、またそっちに行くね」
オレは腕を見せられなかった。
またすぐに会えると思ってた。
なんだかんだで10数年腐れ縁だった。
いなくなるなんて信じられなかった。
どこかでまた一緒にいる日に戻る。
そんな安心感があった。
オレみたいなのを好きになってくれた。
オレのことを最後にはいつも守ろうとしてくれた。
可愛くて綺麗なあいつが大好きだった。
でもオレは何にも出来なかった。
それからリコと二人で暮らした。
リコってチワワはオレのことが大好きだった。
オレもこの犬が大好きで心の拠り所だった。
あいつが刑務所から帰って来た時、
リコはあいつの前ではしゃいでた。
でもあいつが言った。
「ムーがコンビニに入ってるのを待ってる間、すごく不安気な顔をしてたよ、リコを不安にさせないでね」
リコは10年前に二人で飼い始めた。
リコはいつもオレを起こしてくれた。
散歩に行きたくなるとオレに吠えて要求をした。
西成区に住んでた頃は特に仲の良い犬がいっぱいいた。
貧乏でポン中でクソだったけど、あの頃が懐かしくて愛おしい、今でもあの頃に戻りたいとさえ思う。
あいつが刑務所にいた頃、
リコを連れて、お百度参りっていうのをした。
あいつが刑務所でも元気でいてくれるように。
なんかシャブボケ男らしくていいよね、自虐的な気持ちで。
好きで好きで大好きで今でも好きで忘れられない。
とんでもないクズだったけど、それで出会えたならそれでオレは本望だと思えてしまう。
無防備すぎた女だったから、もっと悪い奴らにもっと悪い結果にされてしまうことを避けることはできたとも思ってる。
あいつと別れて3年ほどした頃、シャブをやめた。
その一年後、溺愛してた愛犬のリコを亡くした。
手紙を書いた。
リコの最期は抱いて看取ったこと。
悪いことは全てやめたこと。
返信がきた。
「リコのことありがとう。いつもリコとムーのこと祈ってた、頭がおかしくなるぐらいムーのこと好きだったんだよ、、分かって欲しい。いっぱい傷つけてごめんね。」
そんなことが書かれてた。
。。。。。
リコとあいつがあの頃一緒にいてくれたから
オレは死なずに助かった。
大袈裟じゃないと思う。
毎日毎日何年もクソほどシャブを打ってた、
度を超えてた、
死ぬかキチガイになるかカタワになるか、、
でも守ってもらえてたから生きてる。