あいつがシャブを覚えてしまった。
どうしようもなくなった。
夜の街で長年上手く立ち回りをして生活をしてきた。
色んなことに恵まれてた。
それを全て捨てた。
シャブボケ、落ちぶれ、ポン中末路のどん詰まり。
あいつはK会の腐れシャブ極道が用意した飛田新地の中あたり、当時あったトビタシネマ向かい辺りのクソみたいなマンスリーマンションに住み始めた。
一階にあるコインランドリーの洗濯機がある日全てトラックに積み込まれ盗まれていく現場をオレが目撃したような無法地帯みたいな場所。
ポン中腐れ糖尿極道はあいつを雄琴のソープに沈めようとした。
それだけは阻止した。
あいつはオレに言った。
「ムーは私と一緒に堕ちて行ってはくれないの?パパは私と一緒に雄琴に行こうって言ってくれてる。パパは私をコントロールしてやるって。私はムーにコントロールされていたいの。」
腐れシャブ極道が。
ヒモ志願か?
なんでもありか?
シャブ漬けにして
女の股でメシを食おうとしている下衆極道
カタワにしてやる
名前を言え
1人でいるところを1人で襲ってやる。
名前を教えろ
真っ直ぐ歩けない身体にしてやる
一生立ち直れなくしてやる
オレには腐るぐらいシャブ仲間の女がいる癖に思う、
違う…
おまえは違う。
「どうせオレはクズのポン中、生きてても仕方ない。一人ぐらいはもっと悪い奴をヤッて消えたらいい、
情状酌量だろ?」
あいつはそんなオレを見て消えた。
日本橋東にオレは引越した。
付き合いのあるシャブ屋のヤクザの住んでるマンションへ。
しばらく音信が途絶えた。
…
しばらく数ヶ月は何事もなく過ぎた。
淡々とした地味なポン中生活。
ある時、夜遅くにチワワにご飯をあげて静かに仕事に向かう準備をしていた。
マンションのドアの前で男女が話している声が聞こえた気がした。
ドアを開けてみた。
大きな袋が4つ5つ大量のドッグフードや、高級な首輪やリードの入っている袋が置かれていた。
「xx?!」
辺りを見渡してあいつの名前を呼んだ。
すぐ近くのエレベーターはオレの住む7階から上に動いたばかりだった。
シャブ屋のいる8階で止まった。ドアの閉まる音が聞こえた。
さっきの話し声は上のアホとあいつだとすぐ分かった。
そっと足音を消して歩いて非常階段の扉に向かい扉を静かに開けた。
そこにあいつは隠れてた。
いつもの優しい顔ではにかみながら。
「ムー…ごはん食べてる?リコは元気なの?」
「部屋の中に入る?」
「仕事に出かける途中なの。なんか大きな犬を連れた人がムーの名前を言ったらオートロックを一緒に入って部屋を教えてくれたよ」
「うん」
…
しばらくの間、何度か部屋の前にドッグフードやリコが大好きな犬のオヤツが置かれていた。
しばらくして「シャブは打つもんやない売るもんや」の知恵遅れのシャブ屋のヤクザと言い争いになってマンションを出た。
西成区聖天下に移った。
あいつは遠い実家に帰った。
更に末路を辿り続けた。
ミナミの元の仕事に戻るにも状態が悪過ぎた。
金はシャブが少しだけあれば暮らせた。
3日ぐらいシャブと飲み物だけでを繰り返して過ごしてた。
オレとリコにメシを食べさせにあいつは2時間かけて実家から来た。
部屋に来たらリコと少し話してた。
でも次の日になるとどこかから品物を持ち込んだ。
もう何も止めることが出来なくなってた。
あいつはオレの部屋に来るとトイレに篭り出す。長い時間出て来ないことがあった。
「出ておいで、打ってあげる」
オレもあいつも死にながら生きてた。
あいつの腕はあちこちで漏らして内出血していた。
あろうことか足の甲や胸にまで内出血の痣と注射痕があった。
腕の血管の根元側を指で押さえておくように言った。
ポン中仲間の女の子達にいつも打ってやるように丁寧に針を寝かしてスっと入れてやった。
あいつは別人の顔で言った。
「上手に優しく入れてくれるのね…」
返事なんかできなかった。
この時一度だけオレは死ぬほど好きな女のあいつにシャブを打った。
思い出すと自分自身の心が感情が胸の裏側に亀裂が入り裏向き引っぺがされそうになる、今でも。
自分を呪いだした。
自分を憎悪しだした。
死ねばいい。
最後は自分で死ぬんだ。
最後は自分で死ね。
死ねばいい。
この醜態を晒さず自分を隠して死ねる場所を見つけろ。
消えてしまえばいい。
注射器を持ったまま毎日そう頭の中で繰り返し続けてた。
自己嫌悪を繰り返す思考はシャ#の薬効で出口をなくしてたと思う。