マイコとショーコ、2人の女友達のことをいつも嬉しそうに話してた。

「私には仲間がいる、2人には何度も守ってもらった、だから私も守る。」


マイは行方不明になった。

あいつは共通の知り合いに聞いて回ったけど見つからなかった。

ショーコは結婚して子供ができてた。


2人がいなくなる前から言われてた。

「ムーが止めてくれなければ私もやるかもしれない」

そういうことから一番遠い所にいるような女だからと気にも止めてなかった。


会わない日が少しあった。

あいつがいつもなにをしてるかなんて干渉してなかった。

数日ぶりにあいつの部屋に行った。

あいつが無口で変だった。

あいつの仕草が気になった。

カーペットをいじる。

ずっと。


「カーペット触るなよ、汚くない?なんかクスリやってる人みたい」


「気づいてなかったの?少し前からやってるよ」


え???

……絶句した。


頭の中が真っ暗になって更にわめいてたと思う。

その辺のチェストの引き出しを開いて回った。

出てくる、出てくる

大きなパケに10g

封筒に入ってまた10g、20gグラムのパケ。

出てくるオレペン20本、また出てくる、10本20本ずつが袋に小分けされてる。


量が多すぎる。

普通に買う量じゃない。

ありえない

ありえない


誰が?

誰がやねん?

なんでやねん?


「パパがくれた、お年玉だって」


「はあ?S会のあの兄さんか?!」


「あの人は薬なんて触ってるわけないじゃん、私にはK会のパパもいたのよ、言ってなかったね」


あいつの顔は見たこともないような悪魔みたいな表情を浮かべてた。

汗塗れになって100本近い道具潰した。大きなパケを引きちぎってトイレに流した。


「あかん、あかん、あかんぞ!お前らみないなんがすることちゃうねん!」

「お前らってだれのこと?私はなに?わかんない」

「もーええて、あるだけ出せ!」


ポーチの中から小口のパケ、使用済みのオレペン。

完全に効いているのが手に取るようにわかる。

居たたまれなくなった。

部屋を飛び出して車に乗った。

土砂降りだった。

レンタカーのシビックは1か月以上借りっぱなし。

金なんか払わないのが普通。

やってることはオレが典型的なポン中。


少し走ったところで全然知らない月極の駐車場に車を滑りこませた。

砂利をひいただけのだだっ広い青空駐車場はマンションに取り囲まれていた。


バッグの中から道具を取り出して封を切った。ルームランプを点けるのはヤバいと思った。

オレペンの封を切った。

1グラムパケの中に押し棒を抜いたシリンジを入れて品物を詰め込んだ。

(人にはやめろと言いながらオマエはやめる気なんかないよなぁ、もう死ねよカス死ね)


ジャリジャリと縦割れの結晶の感触。

パケ越しに指先で潰して詰め込む。

暗くて量が分からない。

押し棒を差し込んだ。


車の中にあった、いろはすを開けてキャップに水を入れた。

マイジェクの目盛り半分以上の多めに水を吸い上げて足元でシリンジを撫で回した。

外から見えないであろう高さでエアー抜きをした。左腕を伸ばしていつもの静脈に突き立てた。

薄暗い中で血が舞ったのを確認して押し棒を押した。


途方もない手前の目盛り部分で押し棒がロックを軋ませる感触に行き当たった。

多過ぎる。


(どんだけ入ってるかわからんな、、」

シリンジにはまだまだ血の入り混ざった結晶が残ってる。

すっと静脈から注射針を抜いた。

喉の奥で例の味がした。

手に力がはいって強張った。


静脈から針先を抜いたらべっとりとした血が流れてきた。

アタリの耳鳴りがした。

血管をティッシュで抑えた。

くらっと頭が回った気がした。

車の外を見たら

周りのビルが大きくなったり小さくなったりしてた。

ピントが合ったり外れたりしだした。

ビルが揺れ出した。

ビルがクネクネと曲がりだした。

ビルが前のめりに地面スレスレまで曲がってくる。

全てのものが歪みだした。

真っ直ぐな筈の建物の直線が波うってる。

波は更に大きく早くなり出した。

いまだかつてないbad

シャ#で見た最初で最後の幻覚。

全身の毛穴からシャ#の匂いが吹き出してる気がした。

蒸せたようになまぬるい変な汗が流れてた。

目を閉じて時間が過ぎるのを待った。


少しして目を開けて正常な視覚を取り戻したのを確認して車を出した。

知らない交差点を不意に思いつきも無く猛スピードで左折したらピザーラの三輪バイクが止まってるような低速で道の真ん中を塞いでた。

強くブレーキを踏んで、そのまま急ハンドルを切ったら車はスピンして真逆を向いた。

ミラーにピザ屋の男がびっくりしたようにこっちを見ているのが見えた。そのままアクセルをベタ踏みしてスピンで向いた反対方向に車を出した。

元から行く方向なんて考えたことなんかなかった。