ポン中で落ちぶれる前に好きな女と出会った。
ミナミで夜から朝まで働いてた。
あいつはキタで朝方まで働いてた。
すれ違いながらも、だんだんと深く付き合うようになった。
ミナミとキタでそれぞれいて、なんのしがらみもなかったから、どちらかが連絡を怠れば途絶える関係。
携帯一本失くしてしまえばもう連絡さえつかない。
そんな関係やったんやな。
「むーはえらいね、毎日仕事に行って」
「なにゆーてんの?仕事せなメシ食われへんやろ?」
そんなことを最初の頃よく言われたな。
人の良い部分しか見えないのか?
そんなところがあった。
人を信じることしかできない女。
オレはよく言われてた。
「なんでそんなに人を信用しないの?」
「アホか、人信用して何の得がある?騙されるだけや、夜の街で人を信用するなんてバカげてる」
そんな風に言ってもあいつは笑ってた。
田舎町の頃の幼い頃の話をオレにしてくれた。
毎晩ぐらい、夜中の仕事終わりにミナミの街角で待ち合わせた。
会えたらあいつは嬉しそうに笑ってくれた。
オレはシャブをやってた。
隠してた。
勘づかれた。
やめたと言った。
目の前で1gのパケを燃やした。
ビニールの焼ける匂いとシャブの燃える匂いがした。
2人でコンビニに行って弁当を買ってラブホテルで泊まった。
毎日のようにラブホテルで昼過ぎまで寝て、ランチを食ってから別れた。
また夜会おうね。
ある日、1時ぐらいに仕事が終わるからと言って堺筋のトニーワンて喫茶店で待たせてた。
仕事が長引いて3時ぐらいになってしまった。
道頓堀の通りを小走りでトニーワンに向かった。
堺筋に出た。トニーワンの前にあいつの姿を見つけた。しゃがみ込んでた。
信号を渡って駆け寄った。
「どうした?!」
手を押さえてた。押さえた手の中に血で赤く滲んだティッシュが見えた。
え??
「へんな人にやられた、、」
「見せてみ?」
左手の親指が指紋をパックリ横から1センチ以上切り裂かれてた。
目を覆うぐらいに痛みを感じた。
「警察行こう」
「だめだよ、行かない」
説き伏せたけど、言うことを聞かなかった。
「警察行ったら同じような目に遭う人が助かるかもなんやで?」
首を振られた。
後から言ってた。
警察に行ったらいろいろ聞かれる。
私みたいな仕事をしているの言えないよ。
喫茶店でオレを待ってて遅いから待ちくたびれて面で友達と長電話してた。
標識かなにかに左手を添えていたら、ツっと痛みが走ってそっちを見たら変なパンチパーマの男が顔を覗き込んで来たらしい。
左手をもう一度見たら血が流れだした。
変態の通り魔。
堺筋、道頓堀、日本橋、すぐそこはラブホ街。
そういう類いがいることは想像に容易い。
あいつといた頃のことは忘れない。
夜の街にはドス黒い欲望が色んな形で蠢いてる。
女の子たちがその犠牲になった話は数え切れないぐらい耳にした。
大阪で一番治安が悪いのは西成だとは思わない。
島之内、高津、道頓堀東の一帯が治安が悪かったように思う。
ヤクザ、オーバーステイ、変態、ひったくり多発
レイプ、警察に行けない業者で多額の現金を持ってる連中を狙った路上強盗、高級マンション狙いの空き巣、
頻繁に起きてた。