「人を見かけだけで判断したらあかんよなぁー」

ド#ちゃんと話しこんでて、なんか言ったひと言を覚えてる。


ポン中は明日どうなってるかわかれへん、90%落ちぶれるパターンばっかりやけど、元々は結構な暮らししてた人間も多い。

下手したら、どこぞの御曹司みたいなんが全部捨てて、隅っこでシャ#食って小さくなってたりする。

そんな場合は自分の身の上話なんかすることない。


「おれもななんの自慢にもなれへんけど、ま、車屋の仕事しててな、まあまあやってな、でもシャ#覚えて、何年も経ってから全部ほったらかして西成に来た。売人稼業で丸2年経った。ここでは一番の古株やねん、ほとんどの人間はすぐ飛ぶかパクられる、売り子なんかその日のイキシロ目当てやしな」


当時西成には売り子と親方の関係があって、親方が場代徴収の組織に親方2万、売り子1人あたり1万の場代を払う。

つまり、1人親方なら毎日2万、親方が2人の路上に立つ売り子を使っていれば毎日4万を払う。

太子プラザは9階建のドヤで、全室で100部屋以上あり、その9割以上が巣窟であるから、全盛期、毎月にして億近い金が場代として徴収されていたと思われる。

この話の数年後、大掛かりなガサにて60人以上の売人と客が一斉検挙されたことがニュースとして流れた。


毎日ぐらい、部屋に遊びに行ってるうちに仲良くなってきて、売り子価格でオレに品物を売ってくれた。

部屋ではバケを出して

「ここにおる時は好きなだけ突いてくれてええで」


「2年や、2年、場代なんぼ払ってきたんや?何千万とか気遠なるでなー、ゆーてここ出て行って他所に客ジャンプさせてるのバレたらk会にバレたらヤキとか怖すぎるやろ?腕の一本も折られるのが当たり前やからなあ、キッツい話やで、あれ?今何時?4時?売り子のボケまだ来てないやんけー3時には来いゆーてんのによ、無断欠勤あたりまえーてか?売り子けーへんかってもその日の場代はきっちり売り子の分も持ってかれるからな、はぁ」


「今のうちに飯行こや、え?突いたなりで飯食われへん?うどんぐらいは食えるやろ、?


結局はその日から売り子には連絡つかなくなった。

「なあ、売り子する気ないよな?1万パケ売ったら3000円。5〜6は売れると思うけど。

そやそや、オレの売り子時代は西成の伝説って言ってもええぐらいのエキスパートやったんやで、

最高一日で45本売ったからな、アベレージ30本とかなぁ!毎日10万ぐらいやで。どないやって売ったか?

堺筋のセンターラインでロボットダンス踊ってたんや!客がみんな面白がってオレから買うわな、まあ毎日毎日、さくらマンションでゲームして溶けたわな」


.......     


数日前からよく来ていた客がいた。

20過ぎの目つきの鋭い奴で、ある日から、ド#ちゃんのことを兄貴兄貴と言い始めた。


西村と呼ばれてたその男が帰ったあとオレにド#ちゃんが言った。

「明日から西村立ちよるで」

つまり西村はタチンボとして売り子をする。

仕事をきっちり月末で辞めてくるとのことだった。

ポン中はどこかで崩れてしまうことが多いが、西村はまだ崩れてなかった。

2〜3日後、夜遅くに太子プラザの4階のド#ちゃんの部屋を訪れた。

部屋にいたら、何度か西村が路上の客を部屋まで連れて来た。

商品の受け渡しをしていた。

夜中になり西村が路上を引き上げて部屋に戻ってきた。

西村

「アニキ、4本ですわ、あきませんわ」

ド#

「4本売ったらマシやて、オレが前話したみたいに、センターラインで踊る根性あるか?あったら一気にいけるけどな、まあそのうち客もっと付くよ」

西村

「それとライトバンのポリみたいなんがカメラ向けて何人も写されてたんすけど?」

ド#

「そんなん、いつも、パクられへん自信あったらピースしとけ」


西村が部屋を出てトイレに行った。そのまま帰ったのかと思ってたら30分ほどして戻ってきた。

汗だくで目が血走ってた。


ド#ちゃんがヘロ#ン のパケを出した。

「ちょっとリラックスタイム入るで、好きなだけその品物突いといて」


ミナミでいた頃よく見た光景

少し折り曲げて角度をつけたスプーンを取り出して白い細かいパウダーを落とした。

シリンジにミネラルウオーターを吸い上げてスプーンに垂らした。

ライターで炙ったら数秒で沸騰する。


ド#ちゃんはまどろみに落ちた。


無造作にテーブルに置かれた現金10万程度とgパケと1万パケ数個。

無口な西村が気を張り詰めてる。

素性のわからないポン中の男、つまりオレ。

無防備に寝てるド#ちゃん、

オレが早いのをいって当たり前な状況だと思ってるんだろう、オレが逆の立場でもそう思う。


察してオレは西村に言った。

「これヤバない?オレらが帰った後に誰か客来たら盗まれるでな、さてと、オレもう1発入れて帰るわ」


お互いにそれぞれ突いた。

オレはテーブルの品物ではなくて自分のパケからの品物を。

西村はそれを見ていて少し力が抜けたように見えた。


利益供与してない相手に良くして貰った恩。


数日経ってまた寄って、まあオレは乞食なのかなぁとか思いながらも、タダで貰うことだけはしなかった。

「そんなん金なんかええよ」

遠慮がちにド#は言ってた。

西村は毎日8本とか売れたりしてちょっと明るく笑って喋るようになった。

夜中3時頃まで3人でゲームしてて帰ろうとなった。

ちょっと打ち過ぎて、オレは帰り怖かった。

実際のところ、太子プラザから出てくる人間を待ち伏せしてるパトカーはよくいた。

出た瞬間に隠れた場所からパトカーを発信させて有無を言わさず職質でパクる。


「出るの嫌やなぁ」

「上から見といたるよ」

「パクられるのん見届けてくれるだけちゃうやろな?(笑)、」


「明日はキレメで寝てる思う、明後日ぐらいにまたくるわ、ほな!」


キレメで数日寝て夕方に太子プラザに入った。

4階のエレベーターおりてすぐのド#ちゃんの部屋の前に着いたけど、いつもドアノブにかけてた時代屋ってかいたボードがなくて、え?と思ったら案の定、鍵がかかってた。

ドアの前から電話鳴らしたけど、電源が落ちてた。

何回か掛け直してたら、エレベーターが開いて半袖のTシャツに八分の刺青はいった兄ちゃんが

「そこ一昨日パクられましたよ、ウチ来て下さい」


西成にはドロップアウトしたヤクザも多い。

当時は今のようにヤクザしたことない人間が8分の和彫をいれてるとかあんまりなかった。


1ヶ月と少し経った時にパクられた女の子の面会に都島の未決に行った。

出てすぐにド#ちゃんに会えるかもと思ってフルネームわかってたから、出たすぐにもう一回入りたいと拘置所の入り口の人に言ったら、

「一日一回しかここは通れません」

当たり前のこと言われた。


手紙出すとか、差し入れ屋行くとか、なんでもできた筈なんやけど、そのまま都島駅のトイレで1発入れにいったんやろな。

そのうち、そのうち思ってて、商品ばぁかり食うてボケてて知らん間に日にち過ぎてからまた未決に行ったけど、もうおらんかった。