ミッドナイトウォーキングについては今までも触れたがここでもう一度話させて欲しい。

前にも書いたが俺は不眠症で深夜一時には起きていて、そこから一日が始まる。

濃いコーヒーを飲んで身支度、天候を確認して二時にはウォーキングに出掛ける、

それは俺にとって人生の中の大切な一日を送る為のある種、儀式。

またその日常を形造るためのプロローグである。

たかがウォーキングであるが二時間を歩くとそれは人生に似ている。

挫折や困難、思いがけぬ出来事、そして時に希望の匂いに出会ったりする。

例えば、突然風が強く吹く、天候が急変して雨が降る、びしょ濡れになりなから、思わぬ寒さに背を丸めたりする。

またある時は満天の星に宇宙の神秘を感じたり、月夜の晩に思わず心和んだり。

長い距離だ、足が痛んで引きずりながら歩いたり、立ち止まって断念を決めたりする事も有った。

生理現象だってそうだ、突然腹が渋って漏らした事も、恥ずかしいが草むらを探して狼狽えた事も。

俺の膝は絆創膏だらけ、そう、良く転倒する、道の凹凸、状態は頭に刻んだ筈なのだが、やはり闇夜、思わぬ危険が待っている。

やはり人生に似ているのだ、全てが平坦では無い。

夜はある日美しさに満ちている、闇の中の小さな漁港、漆黒の海に係留された漁船が浮かび上がる、波が静かに寄せる、潮の匂いと月明かりがその風景を包み込む、遠くでは小さくでは有るが潮騒が聞こえている。

夜の美しさが凝縮されてそこにある。

バックグラウンドは静寂。

又、街灯があって俺のシルエットが孤影を映し出す、格好いいんだ、これが、そういう時は俺はナルシスト、孤独は俺の友、なんちゃってね。

やがて寂れた商店街、勿論誰もいない、今では昼間でさえ喧騒に見放されているのだが、夜のそれは閉ざされたシャッターのせいもあってなお衰微の予感が街を覆っている。

そして俺は夜の支配者だ、ただ一人悠然と闊歩する、足音だけが響いている、

静かだ皆まだ眠っているのだ、俺に支配されていることなど誰も知らない。

大抵ウォーキングの最中はブログのストーリーなどを考えている。

遠くで犬の遠吠えなど聞こえれば直ぐに狼に発想を飛ばしたり、月を見てかぐや姫の話が書けないかなどと思いを巡らすので有る。

大抵は幻想に終わるのだが。

ウォーキングの友はスマホから流れるBGMである、ワイヤレスイヤホンを使っている。

先日迄はモダンジャズ、を主流に流していたんだが、今お世話になっているのは「とんちんかん」さんのブログに貼り付けてあった和製ミュージックの総集版、これを使わせて頂いている。

これはいい、コメントもさせて頂いたんだが、兎に角飽きない、中身はポップスから歌謡曲まで、多種多様、問題無しである。

今は亡くなってしまった人、歳を召された方、一発屋だった人、勿論現在人気沸騰中の歌手、それらの人達がかわるがわる、愛を恋を夢や切なさを切々と唄う、そしてそれは老若関係無く青春時代その物、リーゼントを決めてロックを歌っていた矢沢永吉がちょっと良さげなじじいになってバラードを歌っていたり、兎に角、皆が若かった頃の声を聴いたただけで月並みだけど青春時代を思い出したりしてさ、懐かしくて涙ぐんたりするんだから、俺も可愛いよね。

それも多分孤独で闇夜を彷徨っているせいだと思うんだけどね。

そうして家に帰るともう朝刊が届いている。

シャワーを浴びるとそこでプロローグはお終い、達成感が鏡の向こうで笑っている。

まだ四時夜明けまではまだ時間がある。

そしてブログを書き始める。

そこで集中したせいか。

朝食を摂る頃には不思議な事にプロローグの事は一切覚えていない、夢と同じ、見た事は覚えているが内容までは記憶にない。

ちょっとした冒険であった筈なんだが。

スマホを開けると一万四千五百歩とある、しかし、それはもう思い出、振り返る事は無い。

そして本編である日常が始まる。

現実はプロローグを上回って何時も過酷だ。

そうだ。

今日は歯医者へ行く日だ。

冷たい顔のナースが待っている。

覚悟を決めねば。


by   konoe73