アダム・マッケイ 「バイス」 (2018) | It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

It’s not about the ski 遅れて来た天才スキーヤー???、時々駄洒落(笑)、毎日ビール!(爆)

スキー大好き、ゴルフ、読書、映画、演劇、音楽、絵画、旅行と他の遊びも大好き、元々仕事程々だったが、もっとスキーが真剣にやりたくて、会社辞めちまった爺の大冒険?



【日本語字幕付予告編:1分56秒】


【あらすじ(結末までの記述あり):Cinemarcheよりの引用(→)】

2001年9月11日、ワールドトレードセンターに旅客機が2機激突し、米国全体、そしてホワイトハウスは混乱に包まれていました。

地下に避難したブッシュ政権の閣僚たちは現状把握と対策に追われていました。

そんな中、副大統領のディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)はエアフォース・ワンにいるブッシュ大統領(サム・ロックウェル)の代わりに、危険とみなした航空機は撃墜しても良いという指令を出します。

そんな中、男の声でナレーションが入ります。

みんなが恐怖に包まれる中、チェイニーという男はこの事件を“チャンス”だと思い、そして全く目立たない存在でありながら世界を決定的に変えてしまったと。

時代は遡り、1963年。

若き日のチェイニーは名門イエール大学に入りながらも酒浸りで成績不良により退学。

さらには飲酒運転で捕まり、故郷のワイオミングで電気技師として働いていました。

イエール大学で出会った、後に妻となる恋人リン(エイミー・アダムス)は成績優秀でしたが、時代と保守的な地域性のせいで、女性である自分が表舞台にのし上がるのは諦めていました。

彼女はチェイニーに自分の夢を託そうと彼を焚きつけます。

チェイニーは彼女と結婚し、娘も2人生まれ、期待に応えるために努力を重ねます。

ベトナム戦争の徴兵も、扶養家族がいることでなんとか免れるチェイニー。

そして1968年、ワシントンD.C.で議会のインターンプログラムに参加したチェイニーは、そこで演説をしたドナルド・ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)を師と仰ぎ、彼の補佐として共和党で働き始めます。

チェイニーはニクソン政権下で様々な役職を担っていたラムズフェルドに忠誠を尽くします。

それまで取り柄のない人生を送っていたチェイニーですが、権力に身を捧げる意欲だけは人一倍で、政治家は彼の天職でした。

ある日、ニクソン大統領と補佐官のキッシンジャー(カーク・ボヴィル)が密室に入るのを見たラムズフェルド。

チェイニーに「もうすぐカンボジアが爆撃される。このホワイトハウスでは何万人もの運命を変える力が動いているんだ」と言います。

その権力を上手く使えと言われたチェイニーは「でも理念はないのですか?」と聞きますが、ラムズフェルドは爆笑するだけでした。

出世したチェイニーは自分の執務室を手に入れ、リンに喜びの電話をします。

ラムズフェルドはその後キッシンジャーとの確執で左遷されてしまいました。

そんなある日、チェイニーは娘たちと釣りに出かけます。

疑似餌で魚を釣る方法を見た娘から「魚を騙すの?」と聞かれた彼は「それが釣りだ」と答えました。

場面が代わり、それまでナレーションでこの映画の物語を語っていた男が顔を出します。

彼はカート(ジェシー・プレモンス)という、妻子持ちのアメリカ人男性でした。

そしてウォーターゲート事件が起きニクソンが辞任。

家族で辞任会見を見ていた際に、娘たちからニクソンは悪い人間なのか聞かれたリンは否定し、ニクソンに同情します。

副大統領のフォード(ビル・キャンプ)が大統領になり、チェイニーはラムズフェルドをワシントンに呼び戻して手を組み、キッシンジャーと対抗。

2人とも史上最年少で、ラムズフェルドは国防長官、チェイニーは大統領主席補佐官に就任します。

しかし次の大統領選では民主党が勝利し、カーター政権が誕生。

失業したチェイニーは、地元のワイオミングに帰って再度下院選挙に出馬します。

ですが彼は持病の心臓発作を起こし、入院。

選挙どころではないと医者から言われますが、リンが入院中の夫の代わりに演説をして大評判になり、チェイニーは見事当選。

10年以上5期に渡って下院議員を務めました。

1980年代半ば、共和党のレーガン政権が誕生した頃、次女のメアリー(アリソン・ビル)が同性愛者だと、チェイニーたちにカミングアウトしてきます。

共和党は反同性愛を掲げていたため、リンは世間体を気にしますが、チェイニーは娘に愛していると伝えました。

レーガン政権が終わった後、チェイニーはあるパーティで後任のジョージ・H・W・ブッシュ(ジョン・ヒルナー)から国防長官を打診され承諾します。

そのパーティでは息子のジョージ・W・ブッシュが酔っ払って醜態を晒していました。

湾岸戦争も起きましたが、任期を終えたチェイニーとリンは1993年に大統領選挙に出ることを画策。

が、同性愛者の娘の存在を気にしたチェイニーは出馬を断念し、政治の世界を離れます。

チェイニーは石油掘削機や軍のケータリングも担当している複合多国籍企業ハリバートン社のCEOに就任。

チェイニー家はヴァージニア州に豪邸を構えて、リンも文筆家として活躍。

チェイニーは二度と表舞台に出ることもなく、彼らは仲睦まじく暮らしました…とエンドロールが流れ始めたとき、突然チェイニー家の電話が鳴りました。

当時テキサス州知事をしていたあのジョージ・W・ブッシュの選挙事務所からでした。

ブッシュは大統領選に出るから自分の副大統領になってくれないかと打診してきます。

以下、太文字部分の記述には『バイス』ネタバレ・結末の記載がございます。『バイス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

リンは副大統領は閑職だと反対しますが、チェイニーは父ブッシュへの義理もあるので一応会ってみることに。

面会したブッシュは世間知らずで経験不足な世襲政治家。

一度は副大統領の話を断ったチェイニーですが、自身の法律顧問のアディントンに相談し、後日またブッシュと面会してこう提案します。

「君は直感的な政治家だ。だから私が軍や官僚の管理、外交などの日常的な業務をやろう。」

ブッシュは簡単に承諾し、メアリーの件もなんとかすると言ってくれました。

チェイニーの脳内に釣りをしていた時のイメージが浮かんできます。

そしてブッシュは大統領に当選し、チェイニーは副大統領に就任。

彼は周到に根回しをし、ラムズフェルドを国防長官に任命、その他の人事も自分の息がかかった人間を配置します。

大統領宛のメールは全てBCCで閲覧出来るようにし、諜報機関からの報告も先に受けるように体制を整備するなど副大統領の権限を拡大。

さらに富裕層への減税を実施し、地球温暖化対策の法案は廃案、イラクの油田利権を欲しがる企業を募ります。

そしてついに映画冒頭の様に9.11テロが勃発。

混乱の中、チェイニーはアディントンと密談していました。

CIAの調査の結果、テロを起こしたのはビンラディン率いるアフガニスタンのテロ組織アルカイダだと示されますが、チェイニーとラムズフェルドはフセインが統治するイラクも関与していると言い出します。

国務長官パウエル(タイラー・ペリー)は反対し、ブッシュも当面はアフガニスタンだけを攻めると判断しました。

アフガニスタンが陥落後、チェイニーは司法長官たちに根回しをして、ジュネーブ条約を無理矢理な解釈で捻じ曲げ、テロリストとみなした人物への保護義務をなくすと決定。

拷問を強化尋問と言い換えて合法化し、さらに情報を仕入れていきます。

アディントンが提唱した一元的執政府論(大統領は議会の干渉を受けずに判断をできる)という独自の憲法解釈を盾に、チェイニーは様々なことを影から決めていきました。

チェイニーに焚きつけられたブッシュは、パウエル長官に国連でアルカイダとイラクを関連づける虚偽のスピーチをさせてしまいます。

パウエル長官は後にそれを人生最悪の時間だったと振り返りました。

アメリカ国民はフセインが9.11に関わり、大量破壊兵器を持っていると信じてしまいました。

そしてイラク戦争が始まります。

これまでずっとナレーターをしていたカートも徴兵されてイラクに行きます。

バグダッドは陥落しますが大量破壊兵器は見つかりません。

おまけに、パウエル長官の演説でビンラディンと繋がりがあると疑惑をかけられ一躍有名になったザルカヴィという男は、後にISISを作ってしまいます。

チェイニーはハリバートン社の政府からの不正受注への関与を疑われ起訴されます。

ラムズフェルドはブッシュから解任され、チェイニーも彼をかばうことはありませんでした。

イラク戦争は間違いだったと気づいたメディアと国民はチェイニーを糾弾し始めます。

時がたち、オバマ政権が誕生していたころ、チェイニーは心臓病が悪化して死の淵にいました。

同じころジョギングをしていたカートが車に跳ねられ死亡。

チェイニーにカートの心臓が提供され、彼は生き延びます。

カートは死体の状態で「彼は“だれかの心臓”ではなく“新しい心臓”だと言った。あんまりだ。」とぼやきました。

その後、チェイニー家長女リズ(リリー・レーブ)がワイオミングの上院議員に立候補しますが、メアリーが同性婚をしているという事実が選挙でマイナス要素になります。

リンとチェイニーは悩んだ末に、リズに公の場で同性婚に反対を示すように教えます。

メアリーは家族を恨みますが、リズは議員になりました。

最後にチェイニーがABCに出演した時の映像が流れます。

イラク戦争を無駄だったと思っている国民が大半だと言われたチェイニーは、カメラに向かってこう言います。

「世の中には怪物のような人間がいて、その現実に対処しなければならない。私は国民を守っただけだ。私は謝らない。国民に仕えられて光栄に思う。私は選挙で選ばれ、みんなが願うことを実行しただけだ。」

イラク戦争では、4550人のアメリカ兵が死亡。イラク市民は戦争で60万人死亡、さらにISISのテロでイラク及びシリアで15万人死亡。国際テロで2千人以上が殺害されました。

ハリバートン社の株はイラク戦争後に500%上昇。

チェイニーとリンは今でも元気に暮らしています。


【感想】

大統領の陰謀」(1976)、「ザ・シークレットマン」(2017)、「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(2017)も実話ベースで凄かったが、これは、これは! まだ存命中の元副大統領を主人公にして、ここまでこき下ろせるのかアメリカよ!

まあ、ハリウッド自体が、政治的には民主党寄りということもあるのかもしれない。もっと深読みすれば、ハリウッドに入り込んだチャイニーズマネーを通しての中国の思惑も。共和党を叩けと。ちょっと考え過ぎかもしれないが(笑)

その副大統領ディック・チェイニーを演じているのは、20kgも増量して特殊メイクアップで、チェイニーそっくりとなった「元バットマン」クリスチャン・ベール。向こうの俳優は、ロバート・デニーロといい、シャリーズ・セロンといい、役に成り切るためならどんな無茶でもするね~。

そっくりさんと言う意味では、サム・ロックウェルのブッシュ大統領(息子の方)も大笑い。サム・ロックウェルは、傑作「スリー・ビルボード」(2017)で、ゲイで人種差別主義者の警官を怪演していた(アカデミー助演男優賞受賞)役者で、ブッシュに似ているなんて、これっぽっちも思っていなかったが。

もちろん、この映画はただのそっくりさんショーではない。ディック・チェイニーも妻のリン・チェイニーも全然悪人ではない。むしろ、誰の回りにもいそうなタイプ。しかし、これが上手く立ち回って、権力を手にして暴走していく様子を、その夫婦を中心に丹念に描いている。その怖さ。

最後は何しろ、イラクが大量破壊兵器を保持しているとでっち上げて、戦争を仕掛けて、イラクというを潰して、自国の兵士も含め大勢を死に至らしめるのだから。

しかし、本当に怖いのは、後にチェイニーがうそぶいて言う様に「私は、国民が望んだことを実行しただけ」。イラク戦争は、米国国民が望み、国民がチェイニーという怪物を作ったのだ。
「その国の国民以上の為政者を、その国民は持つことが出来ない」という様などこかのエライ方が言った名言があったと思うが。その点は、アメリカも日本も、世界中どの国も例外ではない。

この映画が優れているのは、米国のチェイニー副大統領の物語が、実はどこの国でも起こり得る普遍的人間の物語となっていることなのだと思う。


【スタッフ・キャスト等】

監督/脚本:アダム・マッケイ
製作:アダム・マッケイ、ブラッド・ピット、他
撮影:グレイグ・フェイザー
美術:パトリス・ヴァーメット
音楽:ニコラス・ブリテル
メイクアップ/ヘアスタイリング:グレッグ・キャノン、ケイト・ビスコー、パトリシア・デハニー
キャスト:
ディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)
リン・チェイニー(エイミー・アダムス)
ドナルド・ラムズフェルド(スティーヴ・カレル)
ジョージ・W・ブッシュ(サム・ロックウェル)
メアリー・チェイニー(アリソン・ビル)
リズ・チェイニー(リリー・レーブ)
カート/ナレーター(ジェシー・プレモンス)
コリン・パウエル(タイラー・ベリー)
ジョージ・W・H・ブッシュ(ジョン・ヒルナー)
ヘンリー・キッシンジャー(カーク・ボヴィル)
ジェラルド・フォード(ビル・キャンプ)

上映時間:2時間12分
米国公開:2018年12月25日
日本公開:2019年4月5日
鑑賞日:2019年4月15日
場所:TOHOシネマズ新宿


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