テッド・チャン (1967年米国生まれ、1990年作家デビュー) は、この短編集「あなたの人生の物語」に収められている8編と、その他数編の短編小説しか発表していない (長編は執筆していない) にもかかわらず、現代SF最高の作家のひとりだとされている。 (寡作なのは、本業がサイエンス ライターであり、そちらが多忙であるかららしい。)
ここではドゥニ・ヴィルヌーヴ監督により「メッセージ」(2016)として映画化され、この短編集の表題ともなっている 「あなたの人生の物語」 について述べたい。
映画化に際し、原作を改変したというよりは (もちろん変えている部分もあるのだが)、原作にエピソードや映画ならではのイメージを追加して、映画化したのだということが、原作を読み良く判った。
だから、私が映画を観た際に想像していたとおり、原作の精神は全く損なわれていない。むしろこの静かであまりドラマティックなことは起こらない短編から良く2時間近い映画1本に仕立て上げたものだと感心する。
これはもしかすると、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の功績よりも、この原作を脚色したエリック・ハイセラーの功績の方が大きいのではないだろうか。
エリック・ハイセラーが随分前に映画化権を取り、脚本を練りに練って来たらしいのだ。
一方、あのリドリー・スコット監督の「ブレードランナー」(1982)の続編「ブレードランナー 2049」(本年11月公開予定)も手掛けることと、この「あなたの人生の物語」の映画化で一躍時代の寵児に躍り出た感のあるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だが、(私の個人的意見では) 製作や脚本・脚色等も自分で行なって作品の全てをコントロールしようとするスタンリー・キューブリックやウディ・アレンの様な作家タイプの監督ではなく、それこそリドリー・スコットの様にどんなタイプの映画でも上手に撮ってみせる職人気質の監督だとかいう気がしている。
テッド・チャンの小説の感想を書くつもりが脱線して、映画の話ばかりの様になってしまったがご容赦願いたい。
最後に、ひとつ確実に言えることは、小説「あなたの人生の物語」と映画「メッセージ」は、どちらを最初に読んでから/観てから、後でもう一方を観ても/読んでも、貴方を失望させることはないだろうということだ。
原作と映画の幸福な共存がここにはある。
No.8472 Day 2887