2020年10月18日。東京都調布市東つつじヶ丘二丁目の生活道路が突然「ドーン」という音とともに陥没しました。その地下47メートルで直径16メートルという巨大なシールドマシンが高速道路「東京外かく環状道路」(以下、外環)を建設していたことが原因です。
調布市では住宅密集地の真下で行われていたことです。
それを可能にしたのが2001年施行の「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(以下、大深度法)です。
1995年自民党の野沢太三参議院議員(当時)が、議員立法で「臨時大深度地下利用調査会設置法案」を提出したことに始まります。
野沢氏は議員になる前は、旧国鉄の技術者として山岳トンネルや都市部での地下鉄道(東京駅から品川駅までの横須賀線など)を担当していました
野沢氏は議員時代に「リニア中央エクスプレス推進国会議員連盟」の事務局長を務めていました。つまりリニア推進の中心人物でした。
野沢氏が議員立法で法案を提出した1995年はちょうど山梨リニア実験線の建設中の時期でもあります。
「都市部で開発をする場合、土地所有者が所有権などの権利を主張し補償も要求するため、全住民の了解を得るのに何年もかかります。そこ
で、今まで利用していなかった深さで、公共目的の地下利用であれば無償で使おうと発想したんです。それが地下40メートル以深です。大深度の用途は多岐にわたるはずです」
リニアにも不可欠との思いはありました。時速500キロメートルのリニアは、民地、公有地の区別なくまっすぐ進むから、手続き簡素化のためにも必要な法律でした」
野沢氏は筆者の質問を否定しませんでした。大深度法はリニアのために策定されたといっても過言ではないかもしれません。
大深度法に則り、工事前には事業者は住民説明会をしなければなりません。
外環の事業者である3事業者(NEXCO東日本、NEXCO中日本、国土交通省)は2013年に、リニアの事業者であるJR東海は2018年に住民説明会を開催しましたが、いずれも住民には「大深度という深い場所での工事では地表に影響はない」と説明しました。
2015年3月20日の第189回国会国土交通委員会でも太田明宏国土交通大臣(当時)は「外環の工事では、地上への影響は生じないものと考えております」と発言しています。
里見晋・国交省大臣官房土地政策審議官は「大深度法の使用認可制度は、合理的な権利調整のルールを定めるもの。直接、工事の安全性を担保する規定はない」
東京都品川区でもリニア工事で初めて直径14メートルのシールドマシンが大深度で発進しました。
今年3月末時点で50メートル掘進しただけで稼働しなくなり、6月末時点でも止まったままです。
外環工事で稼働しなくなったことがあり、そのために掘削面を柔らかくするための気泡薬剤を大量に投入したことで地盤が緩み陥没に至りました。
岸田文雄政権下で2022年6月7日に閣議決定した「新しい資本主義」の実行計画では、
「特にリニア中央新幹線については、水資源・環境保全などの課題解決に向けた取り組みを進めつつ、
🔴三大都市圏やその周辺地域をつなぐ高速かつ安定的な交通インフラとして、早期の整備を促進する」
これは、リニアは「国策」であると宣言したようなもので、その「国策」を進める道具である大深度法の見直しについては国会で議論される気配すらありません。一方で、リニアの実現は、見通しが暗いのも事実です。
今止まっているシールドマシンの再稼働の予定は立たず、JR東海は、昨年、さらに1兆5000億円の工費が必要だと公表しましたが、どう工面するかは公表されません。しかし「国策」である以上、財投に次いで国の助け舟があるかもしれません。今後の国の動きには注目したいところです。
2023年4月11日
月刊『住民と自治』 2022年9月号 より
樫田 秀樹
自治体問題研究所ホームページ抜粋
そこは日本の
水源。
水があるということは目に見えない微生物から都会では棲息できない目に見える昆虫、さまざまな
いきものの食物連鎖的関係があります。1つ欠けたら
食物連鎖最後の位置にいるヒトに影響を及ぼす。
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