(智)


俺は粘土でVenusを再現している間も

 

片時も携帯を離さなかった。

 



Venusから連絡来ないかな?

 

俺から連絡しても、いいのかな?

 



ドキドキして、何度もメールを確認する。

 

手が汚れてるから、肘で画面開けて

 

あー。


もう、ロックとか要らねーし。

 




・・・だけど。




 

その週はVenusからのメールは来なかった。

 




まさか。


別の人と・・・!

 

いや、まさか。


いや・・・でも!!

 



俺は一刻も早くVenusに告白をして

 

ステディな関係にならなくてはいけない。

 

他のヤツになんか触れさせてはいけない。

 

とうとう俺はメールを開いて




 

📧「・・・いつ、逢える?」




・・送信した。

 

メールを送ったら送ったで、気になる。

 

気になって気になって、仕方がない。

 

さっきも見たのに。


また、見る。

 




なかなかVenusからの返信が来ないから

 

俺の部屋に巨大な像が出来上がった。

 

それはミロのヴィーナス級の、俺のVenus。

 

あの肌の質感を思い出しては


俺は自分で自分を慰めた。

 

慰めながら作品を生み出した。

 

右手で粘土を撫で左手で自分のを扱いた。

 

切ない白濁は毎日のように溢れ出た。

 

作品は一体だけでなく


二体、三体と出来上がった。

 

石膏で固めて


ロダンの作品みたいに彫刻にするか。

 




Venusの声が聞きたくて

 

Venusに触れたくて

 

Venusに逢いたくて

 

Venusが欲しくて・・・

 



・・・なんの約束もなくて・・・



 

俺の切ない思いは


膨れるだけ膨れ上がって

 

俺の満たされないVenusへの想いは

 

次々と粘土の作品を生み出した。




 

藤枝さんから連絡が来たのは


二度のキャンセルの後で

 

藤枝「大野さん!


ケイが重傷を負っています。


もし、来てくださるなら・・」

 



え?重傷?・・・なんで?

 



俺はその辺の上着を持って


Venusのもとへ駆け出していた。

 

まだVenusのことを何も知らない。

 

だけど、この胸に溢れるVenusへの想いは

 

ホンモノだった。


まさかあんな痛々しいVenusの姿を


見ることになるとは・・・


この時はまだ知らなかった。