今日は「かんかん照り」について考えてみたい。
この曲を聞くと私は新入社員の頃を思い出してしまいます。というのも北海道産まれの北海道育ちの私は、大学卒業と同時に上京し横浜で就職したのですが、夏の暑さに打ちのめされていたからです。
 酒好きな私は、夏はビールと決めていたので、ビールを飲むと汗が止めどなく背中を流れるのが分かるほどでした。この曲を聞きながら「ほんとうにそのとおりだよなぁー」。暑い、暑いと毎日うんざりしていました。しかし、改めて考えてみると、陽水は福岡産まれの福岡育ち、東京に上京しても、そんなに暑いと感じていなかったはずなのに、なんでだろうと思っていました。「やけついた屋根がゆらいで見える」「 お日様は空であぐらをかいて」「 スズメ達はやけどをすのが恐いのか どこかに隠れてる」 「水道の水が「ぐらぐら」たぎり セッケンはすぐに「どろどろ」とける」。とにかく暑い状況を繰り返し強調している。
それで、この曲も「陽水Ⅱセンチメンタル」に収録されているので、1972年の夏が、そんなに暑かったのかと思い調べてみたら、特別暑かったという記録がない。日本でエアコンが普及し始めたのが1970年らしいので、エアコンがなかったから暑いのは暑かったのだろうが、生まれた時からなかったわけだから、どうも腑に落ちない。
特に「帽子を忘れた子供が道で 直射日光にやられて死んだ」というフレーズは、ちょっと大袈裟な表現じゃないかとも思っていた。 また、陽水らしくもないなとも思っていた。そこでもう少し「夏の直射日光」に関連した出来事を調べてみようと思い、たどりついたのが、1945年8月に広島、長崎に投下された原爆である。原爆の熱線と放射線を直射日光と言っているのだろう。「僕の目から汗がしたたり落ちてくる」。この原爆投下で亡くなった人々にそっと涙しているのである。陽水の曲作りに対する姿勢に改めて感心させられた瞬間であった。なお、この曲が秀逸なのは、歌詞に加えてメロディーが的確である。暑さで蜃気楼が揺らめく様子をメロディーで表現できている点である。歌詞とメロディーについて陽水は「歌詞に比べてメロディーは苦労せずにできる」という主旨のことを話していたが、メロディーだけでかんかん照りの様子を表現できているのが見事である。