今日は「夜のバス」について考えてみたい。
この曲の第一印象は、男女の間に漂うウェットな雰囲気が感じられないことである。メロディーも例えば「リバーサイドホテル」が醸し出している雰囲気とは異質なものである。「君のくれた青いシャツを今日は着ていないだけ まだ暖いよ」や「君なら一人で明日を むかえる事も出来る」のフレーズから若干男女の関係を感じられないこともないが、それほどでもない。「どこにも止まらないで 風をきり走る」や「ただ夜のバスだけが 矢のように走る」のフレーズからは、後ろ髪を引かれることもなく潔く関係を断ち切ろうとする強い意志が感じられる。
「バスの中はとっても寒いけれど、君の嘘や偽り程じゃない」。また、別れようとする原因が、嘘や偽りとのことだが、男女の間で、嘘や偽りが別れの原因になるとも思えない。更にこの曲は1972/12リリースの「 陽水Ⅱセンチメンタル」に収録されているが、同時期に発売された男女の関係を歌った「能古島の片思い」や「あどけない君のしぐさ」とも異質だし、また「ゼンマイじかけのかぶとむし」で見られる、彼女のちょっとした仕草から破局を感じ、その原因を自分の行動から反省するようなものとも異質である。これらの点から、この曲は例えば親友(陽水に親友と呼べる人がいたかどうか不明だが)のような関係にある人との決別を歌ったものではないかなという気がする。
「広い窓もただの黒い壁だ、なにもかもが闇の中に」。そして同時にこの決別によって将来への希望がたちきられるような暗澹たる予感を感じているようだ。