「やっぱり、女と付き合いたい」


予想していた通り、俺は振られた。振る側ってのは割りかし呑気なもので部屋を出て行く間際、これからも友達で居たいし今度飯でも行こうなんて耳を疑うような言葉を残して行った。わかったよありがとう、と返してやる俺も俺だ。覚悟していた展開なのにも関わらず、情けないことに涙は止まらなくて泣き腫らした目。その下の青黒い隈はそんな社交辞令を言わせるまでに見窄らしかったのだろう。

俺はあいつがこれから謎の出会い系アプリで捕まえた女に会いに行くことも、実のところお見通しだ。俺はそんな会ったこともないような、ましてや女か男か、本当に存在するのかもわからない人間に負けた。そんなもんか。人は日々期待の繰り返し、もっと真っ当な恋愛がしたいなどと考えるのは至極当然のことで俺に止める理由も術もない。

でも俺を差し置いて幸せになれると思うなよ。なんて思うぐらいは許して欲しい。


それにしても昨夜は散々飽きる程に泣いたもんだから、今朝は至って冷静だ。何ならお腹も空いてきた。クリスマスに渡したペアの指輪や誕生日に貰った財布。洗濯機に入っているであろう下着のことを思い出し、ごみ袋に納めた。服は殆ど共用だったから案外それぐらいしかない、大したことはないな。


まだ余裕のあるごみ袋を固く結ぶ。こういう時は早い方が良いのだ。先程まで雨が降っていた空はもうすっかり晴れ渡っていて俺以上に天気はわがままだ、なんて普段1ミリも思わないようなことを考えてしまうのだから傷心とは恐ろしい。着替える間もなかった昨日と同じ服に上からパーカーを羽織り、サンダルを突っ掛けてごみ袋を片手に部屋を出た。



今、もし明日、いや1週間後にでもまたあいつが戻って来たらどうしよう。捨てない方が、まだ大切にしていた方が健気でかわいいんじゃないだろうか。薄く袋から透けるペンギンの柄の下着は俺が買ったもので、思いの外喜んで貰えたんだっけ。思い出は綺麗なものとは幾度となく俺も詞として語ってきたけれど、本当にその通り。枯れたはずの涙がじんわりと込み上げ溢れる前に目尻を拭い、呼吸を止めたその間に放り込む。いつだって期待など裏切られてきたではないか、よく思い出せ。手の内から離れ他のごみ袋とぶつかり、無機質な音を立て沈んでゆくその様はまるで今の俺のようで虚しい。




今日は、休もう。元々予定は打ち込みだけだし、夕方から始めたとしても全て夜には渡せる。

エレベーターへ乗り込み12階のボタンを押して短く息を吐く、温かくてうんと甘いココアでも淹れて観たかった映画でも観よう。

聞き慣れた到着を告げる機械音と共に扉が開くと、見慣れない男の子の姿。綺麗に手入れされた金髪の綺麗な髪の毛と、可愛らしい顔立ちが印象的で思わず数秒間凝視してしまった。仕事柄長く家を離れることもあるし、周りの音をシャットダウンしていることもあるから越して来たにしても気が付かないことがあっても可笑しくはないか。

それにしてもどこかで見たことあるような。首をひとつ傾げたまま横をするりと通り抜け自室へと向かった、その時。



キュヒョンさん?」


どうやら俺のことを知っているらしい。




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