小太郎「あー、よく寝たぁ〜」

うん?…あれ?

…ここ、どこだろう?



見渡すと、黒猫の俺…
                  しゅーた…が寝ている。

ああ、病院かぁ。
俺、しゅーたと一緒にあいつらと
けんかして…倒れて…
ボコボコにやられちゃって。
  そっからは、まるで覚えてない…


「あ……」


そして、人間の俺のそばには、
サクラが、俺の手を握ったまま、
眠っていた。

小太郎「サクラ…」

俺は、サクラの髪をそっと撫でた。

小太郎「ごめん…
また、心配かけちゃったな。」


「おまえ…気がついたのか?」


小太郎「え? あ…」

後ろの椅子に、俺とそっくりのあいつが座っていた。





西島「大変だったんだぞ。
サクラが、心配して廃材置き場までお前を探しに行って、倒れてたお前をみつけたんだ。」

小太郎「……」

西島「お前、本当にあの猫の
       小太郎なのか?」

小太郎「……」
  どうせ、信じないだろ?


西島「明日の昼には、猫に戻るって、
死んだ母さんが言ってたとか…
正直、信じられないし…
俺にソックリなのも、不思議だし。
本当は、どうなんだ?」

小太郎「……」

西島「おい!何とか、言えよ。
おまえ、話せるんだろ!」

イライラして、つい、声が大きくなる。

小太郎「し!静かにしろよ。
サクラが起きちゃうよ。
…また、俺を助けてくれたんだね。
これで、3回めだね…」

西島「お前…覚えてるのか?」

小太郎「うん…なんとなく。
最初に雨の中、捨てられた時と
車にはねられた時と
そして、今…
ここまで、運んでくれたんだろ?
ごめん…いままで素直になれなくて。
俺…サクラが大好きだから、
サクラが、お前のこと好きなのも
気に入らなかったし。
正直、邪魔だったんだ。
だから、わざと懐かなかったし。
…でも、ありがと。
お前に助けられなければ、
俺、死んでたし…
母さんやサクラにも、会えなかったし…
お前にソックリなのも、母さんが、
兄さんと仲良くして、と言ってたからかもな……」

西島「母さんが?
俺は仕事が忙しくて、なかなか母さんに会いに行かなかった。
突然、死ぬような重い病気だったなんて、知らなかった。
電話しても、いつも元気そうで、
逆に、無理しないでと俺の体を気遣ってばかり…
今、何を言っても、言い訳になるけど…

お前の話が本当なら…
…お前が、俺の代わりに、いつも母さんの側にいてくれたんだな…

…礼を言うよ、小太郎。
お前が人間になって、こうして話ができて良かった。」

小太郎「…このまま、人間でいたいな。
サクラと.…もっともっと、やりたいことあったんだ。」

西島「…小太郎……
 俺が、サクラを幸せにするから。
    …約束するよ。
だから、このまま安心して、猫に戻ってくれよ。」


小太郎「……」

(やだ!やだよ。
このまま、もっとサクラと話したり、遊んだりしたい。人間でいたいよ!)

本心は言えなかった。
俺は、ただ、奴の目をみつめた。

重い空気が流れる。


サクラ「…う、うん…
あ…小太郎…?気づいたの?」

サクラが、起きた…

小太郎「…おはよ、サクラ。
助けてくれて、ありがとう。」

サクラ「大丈夫?体は痛くない?」

小太郎「うん、全然、大丈夫。
  ほら!」

小太郎は、腕に巻かれた包帯をといた。

不思議に酷かったキズは、治っていた。

サクラ「顔のアザもないわ 
    …頭も、痛くないの?」

小太郎「全然、大丈夫だよ。」

サクラ「一応、日高先生に知らせた方がいいわね。」

西島「じゃ、俺が知らせてくるよ。
 院長室にいるだろうから。」

サクラ「うん、お願い。
小太郎は、先生が来るまで、無理しないで横になってて。」

サクラは、俺をベッドに横たえ、毛布をかけた。


バタン…

奴が、部屋を出て行った。

今だ!

俺は、起き上がり、ベッドから降りて、サクラの腕を掴んだ。

サクラ「…小太郎?」


小太郎「サクラ、行こう!早く。」

サクラ「行くって、何処に?
今、先生が来るのよ。
勝手に出て行けないわよ。」

小太郎「昼までには、戻るよ。
時間がないんだ。早く!」

サクラ「ちょっと、小太郎!
ダメだってば!」

嫌がるサクラを無理やり、部屋から連れ出した。

サクラ「ダメだよ。小太郎!
西島さんが、今、来るから。」

小太郎「サクラ…
最後なんだ。また、猫に戻ったら、
何もできなくなる。
少しだけ、好きなことさせて、ね?」

サクラ「小太郎…」

最後…その言葉に、
フッと…力が抜けた。

サクラ「必ず、昼までには戻るからね。
約束だよ。」

小太郎「うん!約束する。」




日高「目を覚ましたんだって?
  …あれ?いない。」

西島「…そんな…2人ともいない。
何処に行ったんだ?」


日高「まさか、逃げた?とか…」

西島「サクラも一緒だし。
それは、ないでしょ。
トイレかな?俺、探してきます。」

日高「ああ…ふわ〜眠い。」


西島「いない、何処だ?」

トイレにも、待合室にもいない。
玄関から、外に出てあたりを見渡した。

夜は、まだ明けたばかりで、薄暗かった。

 
西島「サクラさん…あ、そうだ。」

俺は、📱に電話した。

着信音が鳴る♪…


西島「サクラさん、早く出て。」

「はいはい。」
男の声が出た…

西島「あれ?この番号は…」

「俺だよ、日高。
これ、サクラさんの?
ベッドの下に落ちてたよ。」

西島「そんな…連絡できないよ。」

日高「ハハ…逃げられたな。
まあ、昼には戻るだろう。
サクラさんも一緒なら、大丈夫だろ?
とにかく、お前は病室で待て。」

西島「いや、車で探してみます。
昼には、戻りますから。」

日高「わかった。
何かあったら、お前に連絡する。
猫ちゃん達は、見ておくから。」

西島「はい、お願いします。」


…やきもちに似た感情だった。
「このまま、サクラと一緒に人間でいたい。」小太郎の言ったことが、気にかかる。
遠くに行かなければいいが…

昼までに、病院に戻れないと、
どっちにも、戻れなくなるんだろ?
それって……

小太郎、何を考えてるんだ?

俺は、キーを握りしめて車に急いだ。