窓から、海が見える…

もうすぐ、日が昇る…

小太郎に言われるまま、始発電車に乗り、前に千晃と一緒に来た、海に向かっている。

小太郎は、いつもと違って、口数も少なく
静かに、窓から海を見ていた。

いつもなら、「お腹すいた!
サクラ、ご飯くれ!」とうるさいくらいなのに……


急いで病院を出たから、携帯も忘れてきてしまった。

西島さん、心配してるだろうな……




「次は、○○浜ー○○浜ー

お忘れ物ないよう……」



電車が、海辺の小さな駅に着いた。

サクラ「小太郎、着いたよ。
降りよう。」

小太郎「うん…」

小太郎は立ち上がり、私の手をぎゅっと握り、電車を降りた。

小太郎の手は冷たかった。

…嫌な予感がする。


サクラ「小太郎、お昼までには、必ず病院に戻るからね。」


小太郎「……」

小太郎は返事をせずに、私の手を強く引っ張った。

サクラ「約束だからね。絶対だよ。

あ、お腹、空かない?
駅前のコンビニで何か、買おうか?」

小太郎「うん、そうだね…」

サクラ「小太郎……
具合悪いの?大丈夫?
病院に戻ろうか?」

小太郎「大丈夫だよ。
ねえ、サクラ…人間と猫ってさ、どっちが長く生きるの?」

サクラ「いきなり、何?
そうね、人間かな。」

小太郎「じゃあ、やっぱり俺、
     このままでいいや…」

サクラ「このまま?
ダメだよ。どっちにも戻れなくなるって、言ってたよね。」


小太郎「それだって、本当かどうか、わからないよ。
俺、このまま、サクラの側にいたい。」


サクラ「………」



もし、自分が小太郎の立場なら、

きっと同じ事を考えてるかもしれない。


それに、信じられないこの数日の出来事を考えたら、

もしかしたら、このまま小太郎が人間のままでいられるかも…


でも、そうなら…猫の小太郎はどうなる?


眠ったまま…死んじゃう…のかな?


それも、いやだ。可愛そうだよ。




駅前のコンビニで、食べ物と飲み物を買った。


小太郎「サクラ、これとこれも!」


コンビニに着くと、いつもの食いしん坊の小太郎に戻った。


好物の唐揚げや肉まんも次々、買い物かごにいれている。


サクラ「あ!アイス買おうか?

前に、約束してたから。」



小太郎「うん、アイス!」


良かった…笑顔の小太郎にホッとした。


アイスを食べながら歩き、海辺のベンチに座った。


小太郎「あ〜お腹、空き過ぎ!」


アイスをあっという間に食べて、唐揚げとお握りに手を伸ばす。


小太郎「うま〜サクラも食べなよ。」


サクラ「うん…」


まだ、早朝の海風は、少し寒かった。

隣にいる、小太郎の体温が伝わってくる。

あったかい…本当の人間みたい…



小太郎「あーお腹いっぱいだぁ。

サクラ〜俺、遊んでくる!

    今日は、魚いるかなぁ?」


サクラ「ここにはいないよ。

今日は、車じゃないから、服、濡らさないでよ。

靴、脱いで。あ〜袖と足も〜!」


小太郎「OK〜!」


全然、OKじゃない…

バシャバシャ、海に入って行く。


小太郎「サクラも、来いよ〜

   ひゃっ、冷てぇー!」


サクラ「ほら〜濡れてるよ!」


朝日を浴びて、笑顔の小太郎が、

キラキラ✨まぶしい。






小太郎「あ!」


砂浜を行ったり来たりして、

何かを探している。


小太郎「よし!」

そう言うと、手に何かをのせて、ニコニコしながら、歩いて来た。



小太郎「サクラ、これあげるよ。」


手の中には、ピンクと白の小さな貝…


サクラ「…綺麗。

   サクラの花びらみたいだね。」


小太郎「花びら?ふーん、そうなの?」


サクラ「ありがと。大切にするね。」


小太郎「うん。カニ🦀も、ほしい?

     あっちにいたよ。」


小太郎は、岩場を指差した。


サクラ「カニは、いらないよ。

     持って帰れないし。

それより、そろそろ戻らないと…

携帯ないから、時間わからないし…」


小太郎「まだ、大丈夫〜!」


そう言って、小太郎はまた海に向かって走って行った。


サクラ「帰りの電車、何時かな…

早めに駅に行かないと。」


サクラ「プレゼントかぁ。ふふ…」


広げたハンカチに貝殻を入れて、

そっと、ポケットに入れた。




段々、日も高くなってきた。


サクラ「小太郎!帰るよー。」


小太郎は、聞こえないフリで、また何か探している。


サクラ「しょうがないな〜」


小太郎の所に行こうと、ベンチから立ち上がると、小さい女の子とお父さんの親子連れが、歩いてくるのが見えた。


サクラ「あの…すみません。

今、何時ですか?」


「時間ですか?えっと…

  11時過ぎた所ですね。」


サクラ…「え!

          あ…ありがとうございます!」


まずいよ。すぐ、戻らないと帰れなくなる。


「ねぇ、ぱぱぁ

あのお兄ちゃん、変だよ。」


女の子が、小太郎を指差した。


サクラ「変?何が?」


「体が、透けてるよ。

海に溶けちゃうみたい。」


「そう?そんな風には見えないけどな。

ささ、ママが待ってるから帰ろう。」


「うん……」


女の子は、不思議そうに小太郎を見ていた。



サクラ「え…透けてる?まさか…

全然、そんなふうに見えないけど…

    小太郎!置いて行くよ〜」


小太郎「待って〜もう少し。」


サクラ「あの、携帯貸していただけますか?忘れて来てしまって…」


「いいですよ。どうぞ。」


サクラ「ありがとうございます。」


財布から、西島さんの番号のメモを出し、電話をかけた。


つーつーつー


サクラ「え?話し中。じゃあ… 」


日高病院の診察券を出し、その番号に電話をかける。


トゥルル〜トゥルル〜


「はい、日高病院です。」


サクラ「あ、先生。サクラです!」


日高「逃亡者がやっと連絡してきたか。

西島も心配して、車で探してるぞ。」


サクラ「すみません。急にいなくなってしまって…

今、○○浜にいます。

これから、すぐに帰りますから。

あの、猫の小太郎の様子は?」


日高「相変わらず、眠ったままだよ。

もうすぐ、昼だぞ。

とにかく、早く帰れ。

西島とは、連絡ついたのか?」


サクラ「…話し中で、つながらないんです。」


日高「じゃあ、一応、俺から連絡してみるよ。」


サクラ「お願いします。これからすぐに駅に向かいますから。」


日高「ああ、わかった。」



サクラ「ありがとうございました。

助かりました。」


「いえ、お役に立てて良かったです。

めぐみ、行こう。」


「うん。お姉ちゃん ばいばい。」


サクラ「ばいばい。」



とにかく、急がなきゃ。

電車に間に合わないと戻れない。


濡れるのも構わず、小太郎の所に急いだ。


サクラ「小太郎ー帰るよ。

       ……あ、れ?」


小太郎の手をつかもうとしたが、何故か掴めない。


もう一度、両手でつかもうとしたが、やはり、するりとすり抜けた。


小太郎「サクラ、何 やってんの?」


サクラ「…小太郎。腕……」



小太郎「…何だよ。」


サクラ「…透けてる。」


小太郎「は?」


サクラ「…つかめないよ。」


小太郎「ほんとだ……」



あの女の子の言ったとおり

小太郎の体は、透けてきている…


サクラ「とにかく、駅に急ごう。」


小太郎「やだ!ここにいる。」


サクラ「このままだと、体がなくなっちゃうよ。死んじゃうの嫌でしょ?」


小太郎「……やだ…

                    死ぬのは、やだよ。

でも、猫に戻るのも嫌だ!」



サクラ「とにかく、戻るのが先!」


嫌がる小太郎のジャージの裾を掴んで、駅に向かった。



 どんどん体が透けてきていた。

駅に着き、時刻表を見ると、戻る電車の時刻はすでに過ぎていた。


サクラ「まずい…公衆電話ないかな。

駅前に、タクシーはいないし。

なんとか西島さんに連絡して、迎えにきてもらうしかない。 

あ!あった。」


駅の売店の所に公衆電話があった。


サクラ「小太郎、電話してくるから、

ここから、絶対に動かないでね。」


小太郎を待合室のベンチに座らせた。


腕と足の先が、消えかかっていた。


幸い、駅には他に人はおらず、売店も閉まっていて、駅員も事務所にいる。

小太郎の様子を気にかける人はいなかった。


急いで、受話器をとり西島さんの番号を押した。


サクラ「お願い、早く出て。」


西島「サクラさん?」


サクラ「西島さん、○○浜の駅にいるの。お願い、早く来て。」


西島「日高先生に電話もらって、

今、向かってるとこだから。

えっと…後、10分くらいかな。」


サクラ「わかった。

あの…小太郎が消えかかってるの。

私、心配で……」


西島「消えかかってる?

わかった、急いでいくから、

小太郎のそばにいて。」


サクラ「お願いします。」


良かった……



サクラ「小太郎、もうすぐ西島さんが迎えに来るからね。」


小太郎「サクラ……

なんか、息すんの苦しい…」


サクラ「大丈夫だから、頑張って。」


そう言うしかなかった。


どうすることも、できない…


ただ、小太郎の体を抱きしめているしかなかった。