【連載23】高次脳機能障害・胡椒や唐辛子の減りが異常に早い…それも症状の一つだった!
「逆境のトリセツ」とは・・・
右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
実在する谷口正典と、妻益村泉月珠のノンフィクション小説です。
✅幻冬舎ゴールドライフオンライン連載中
話し合い
高次脳機能障害の症状とプライド
「同じ思いをしている人がいることを知っただけで、本当に救われます」
私は、孤独から解放され、涙を流した。
「高次脳機能障害と言っても、原因も違えば、脳の損傷箇所によっても症状が違うからね」
この言葉にはっとした。私は、夫の異変を高次脳機能障害と思っていたが、高次脳機能障害にも、様々な症状があったのだ。ちょうどその頃、高次脳機能障害であることを認定して、精神障害者手帳を発行してもらうために書類をまとめようとしていた。
しかし、この会に参加したことで、この後、どうして良いかわからなくなってしまった。
「高次脳機能障害の症状がよくわからなくて……」
家族会の代表に相談したところ、高次脳機能障害の症状について、項目ごとにきれいにまとめられた冊子を手渡された。
「この冊子に症状が書いてあるから、見てみるといいわよ」
その冊子を開いてみると、遅刻のこともお金のことも書いてあった。それだけでなく、食事では、同じものばかり食べる。お腹が空くと二人前や三人前食べ切れないのに頼んでしまう。ドレッシングや醤油などの量を調整できない、などと書かれている。こんな日常のことも障がいの一つなんだと知った。
「確かに、うちは、胡椒や一味唐辛子の減りが異常に早いんです。そう言えば、シャンプーの減りも異常に早い。これも症状なんですか?」
「それは症状ですよ」
「この冊子に書かれている内容ですが……、夫は、ほとんどの項目に当てはまっていると思います」
家族会の代表は目を丸くした。
「仕事はどうですか? なかなか周りの理解を得られないんじゃない?」
心配して声をかけてくれた。
「そうなんです。仕事が続かないんです。なんとなく見た目はできそうに見えるので、次々と仕事を任されて、結局、パニックを起こしているみたいなんです」
「そうでしょうね。難しいと思いますよ。ここには、B型支援施設もあるんですよ。見てみますか?」
「はい、見学させてください」
早速、別棟の部屋に案内されて、夫と二人で見学することになった。そこでは、高次脳機能障害の当事者が、名刺交換やコミュニケーションをとる練習をしていた。一通り見学を終えて、お礼を言って外に出た途端、夫は私にお願いするように言ってきた。
「ここは違うと思う。ここには、行きたくない。絶対行かない」
「え? まだ見学しただけじゃない」
「俺は、あんなんじゃない」
と断固拒否の姿勢を顕にした。