【連載22】「優しい夫は戻ってこないのでは…」同じ症状に悩む人々の「家族会」への参加を決めた日


「逆境のトリセツ」とは・・・
右足と脳機能を失っても、挑戦し続ければ道は開ける。
人生の目標を実現していく、夫婦の起死回生ストーリー。
実在する谷口正典と、妻益村泉月珠のノンフィクション小説です。

✅幻冬舎ゴールドライフオンライン連載中
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「家族会ですか?」

「この障がいは、『生活障害』といって、家族の前で症状は出ますが、入院中や医師の目の前では、症状が起こらないし問題なく見えます。病院での検査結果が良かったとしても、日常生活が送れない、難しいこともあります」

「ここに解決の糸口があるかもしれませんね。行ってみます」

選択肢はもう残っていなかった。すでに臨月になろうとしていた私は、動くのが辛くなり始めていたものの、子どもが生まれてからよりは動きやすい! と、意を決して家族会に参加することにしたのだ。

高次脳機能障害の症状とプライド

夏の暑い日、大きいお腹を抱え大粒の汗をかきながら、夫と一緒に高次脳機能障害の患者や家族が参加する会合に出席した。

「こんにちは」

恐る恐るドアを少し開けて会釈をして顔をあげると皆さん、ニコニコしていて、アットホームな雰囲気。

「どうぞ、どうぞ、中に入ってください」

ちゃきちゃきと動いている家族会の代表と思われる女性から声をかけられ中に入った。代表の娘さんが高次脳機能障害だと言う。そこには、私と同じように悩み苦しんでいる家族がいた。机と椅子がロの字に並べられ、障がいがあるようには全く見えない人たちが並んでいた。

「大雨で土砂災害があったとき、夫が一人で出て行ってしまって、行方不明になったんですよ。それで、見つかったときは、パトカーで帰宅したんですよね」

ご高齢の奥様が隣のご主人の話をされた。

「お金を全部使ってしまうから三百円を毎日持たせることにしているんです」

なんだか、私の悩みがちっぽけに見えてきた。こだわりが強いという話もあるが、夫と似ているようで、似ていない。

「夫は、十五年前に事故に遭って、脳挫傷と二週間の意識不明の重体で、三か月くらい前から、二重人格のようになったんです。近くの病院に行ったら、そんなアニメのようなことはないって言われてしまって……。誰もわかってくれないって、すごく悲しかったんです」

「それは大変でしたね。性格が変わったようになることありますよね。でも、医者じゃあ、それはわからないですよ。日常生活の中で気がつく障がいだから。だから家族会でこうして話をしているんです」



「優しい夫は戻ってこないのでは…」同じ症状に悩む人々の「家族会」への参加を決めた日
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